水の底

雫石

水の底

     






     夜、眠れない部屋の天井に

インクの染みを見る

     夜、暗闇の その奥を見て

このペンで何を書こうか

     あるいは、

このペンで何が書けるか

     男のささやきに耳を傾け

冥府の王が待っている

     あの冷酷なる川を渡らんとす

川底の小石に突っかかり

     仰向けで浮かんだまま

好きな女のことを考えると

     遠くから、唸り声をあげる

飛行機の影がやってきて

     魚みたいに、目の先で

その肢体を揺らして去っていく

     やせ細り 骨浮き上がる

裸体を冷や水がなでる

     気づけば水の底

あっという間の沈没は

     誰も知らない水の底

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