そのダンジョンでは絡まれます Ⅴ
「ぶっぇくしょん!」
「何、グリアム⋯⋯風邪?」
「え? いや、違う、違う」
「だれか噂しているのでは無いですか?」
「だれがこんなおっさんの噂するんだよ。そんな事よりサクっと戻って、ヴィヴィのクラスアップだ」
グリアムは【ベイビートロールの骨】を背負子に投げ入れ、背負い直す。6階でエンカウント出来たのはラッキーだった。不慣れな初心者パーティーで、
イヴァンの実力だけを見れば、B級も狙えるかも知れない。だが、如何せん経験と力のある人材が足りない。
あの
「イヴァンも、そこそこ稼いだろ。帰るぞ」
今日も無事に⋯⋯まあ、ちょっとしたアクシデントはあったが、無事完了って事でいいかな。
□■
「ヴィヴィ・ローデン様。D
ギルドの受付で、ミアがニッコリと微笑んで見せた。
「ありがとうー! お、何か変わった? かな?」
「変わりましたよ。タグの刻印がDになったでしょう」
「おお! 本当だ!」
ミアがなぞったタグの文字が、確かにNからDへと変化していた。
しかしエルフってのは、なんとも不思議な生き物だな。何で文字を変える事が出来るのか、さっぱり分からん。タグをなぞる緑光が、そうさせているんだよな。だけど、他になんか使い道のある魔法なのかね?
「おめでとう、ヴィヴィ」
「ウフフフ、ありがとう。グリアムもね!」
イヴァンは満面の笑みを返し、グリアムは少し離れた所から軽く手を上げて見せた。
嬉しいのと珍しいのとで、ヴィヴィはずっとタグを弄んでいる。イヴァンはミアと何かを話し込んで勝手にひとりで盛り上がっていた。
グリアムは背負子を背負い、子犬を抱いたまま長椅子にチョコンと腰掛け、ふたりを待つ。犬を抱える【忌み子】のシェルパが珍しいのか、ボソボソと何か言い合いながら目の前を何人も通り過ぎて行った。
いつもの事ながら、長居はしたくないものだ。
「おい、帰るぞ」
「はーい。イヴァンも行くよ」
「あ、うん。では、ミアさんまた」
「イヴァンくんも気を付けてね⋯⋯あ、そうだ凄腕のシェルパさん、ちょっといいかしら」
受付の奥の笑みが、少しばかり不穏を映していた。それが気になり、グリアムは素直に受付へと足を向けた。
「何だ?」
「立場上、あまり詳しくは話せないけど⋯⋯二番手が、あなたを嗅ぎまわっていたわよ」
「は?! オレ? 二番手って何だ?」
耳元で囁かれた言葉に困惑しかない。ミアは妖艶な笑みを見せ、話が終わった事を告げた。
二番手が嗅ぎまわる?
二番手⋯⋯
何で嗅ぎまわる?
思い当たる節⋯⋯と言えば、アザリアか。
アザリアが嗅ぎまわっているから、興味を示した。そんなところか。
つか、何でオレ? パーティーじゃないの?
あの様子だとミアは、余計な事を話してはいないはず。こちらから何かアクションを起こす事はねえよな。だいたい、対抗出来る力なんてねえしな。
まさか、今日のあれも? それは考え過ぎか。
後を
やっとアザリアの目から解放されったてのに、次から次へと全く⋯⋯何なんだ?
グリアムは険しい表情で背後の気配を探った。
「グリアム、どうしたの?」
「あ、大した話じゃない、次はどうするのか聞かれただけだ」
「何て答えたの?」
「知らねえって」
「ふ~ん」
「ほら、帰るぞ。今日も飯作るんだろう」
「そうですね。何にしようかな」
ヴィヴィも何か引っ掛かったみたいだが、すぐに今日の夕飯へと頭の中はすり替わる。
「はいはーい! しょっぱいスープがいい!」
「ヴィヴィ、スープは大概しょっぱいよ。⋯⋯分かった、牛頬肉のアレジャスープにしようか」
「それ!」
ヴィヴィの屈託のない笑顔を合図に、【クラウスファミリア】は家路を急いだ。
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