小津(オヅ)の魔法使い『ちゃぶ台から見上げる世界:固定ローアングル撮影で表現される映像的三人称』

笹 慎

オードブル『カメラアングル総論』

 本作の紹介文にも書きましたが、『オズの魔法使い』について調べてたら、『小津おづの魔法使い』というくだらないダジャレを思いつきました。


 映画好きからすると「小津」といえば、かの日本が誇る映画監督・小津安二郎(注1)氏です。


 小津安二郎監督作品の特徴といえば、ちゃぶ台ちょっと上や床ちょっと上から少し見上げて撮られた独特なローアングルと手ぶれしないように固定されたカメラで撮影された美しい完璧な構図の画面構成でしょう。



 さて、本題の小津作品の撮影手法について語る前に、まずはカメラアングルについて、たらたらと映画雑談をしていきたいと思います。


 カメラアングルはざっくり簡単に大別すると、


・アップor引き

・あおりor俯瞰

・アイレベル(目線)や地平線の位置


 こういった点になります。



 このカメラアングルについて、2022年公開のスティーブン・スピルバーグ監督(注2)作品『フェイブルマンズ』で、巨匠ジョン・フォード監督(注3)役のデイヴィッド・リンチ監督(注4)が若き日のスピルバーグに映画のワンシーンを捉えた写真を指差しながら、こう問いただすシーンがあります。


「おい。これは良いか? 悪いか?」


 まだ何者でもない若スピルバーグは、憧れのJフォード監督にそう詰め寄られて狼狽えます。しかも指差された写真群はJフォード監督作品のワンシーンです。


 つまり、「良い」としか言えないですよね。だって、Jフォード監督のファンだし、スピルバーグ(苦笑)


 結局、Jフォード監督は、そんな若者の回答なぞ最初からどうでもよかったかのように、正解を口にします。


「これは、地平線が(画面の)下にある。良い!」


「これは、地平線が(画面の)上にある。良い!」


「これはダメだ。クソだ。(地平線が画面の)真ん中はダメだ!」


 このエピソードが、実際にスピルバーグ監督がJフォード監督からアドバイスされたことなのか、創作エピソードなのか、はたまた「巨匠ジョン・フォード監督役のデイヴィッド・リンチ監督」という超絶パンチの効いたキャスティングによるミラクルアドリブなのかは謎です。


 しかしながら、このように映画にとって『カメラアングル』とは、非常に重要なものです。切ない映画、カッコイイ映画、コメディ映画、ホラー映画……撮り方ひとつで雰囲気はかなり変わります。



 余談。

 『フェイブルマンズ』は奔放なスピルバーグ監督の母親がメインで描かれますが、ラスト付近ででてくる巨匠ジョン・フォード監督役のデイヴィッド・リンチ監督がマジで強烈すぎて、全部もっていくので必見です。映画館で思わず声出して笑っちゃったし。


 ってか、Dリンチ監督を知らん人からすると、マジであのジジイだれやねんって感じでしょうけれど(苦笑)


 なお、筆者は『フェイブルマンズ』を観てから、他の映画を観るたびに地平線の位置が気になり、現場猫のように脳内に巨匠ジョン・フォード監督役のデイヴィッド・リンチ監督が現れて、「地平線、よし!」していくので困っています。


****************************

<注釈>


注1 小津安二郎(1903年~1963年)

 映画監督、脚本家。

 代表作は、やはり『東京物語』(1953年)だろう。

 昭和の家族像を描いた作品が多い。華やかな作風ではないので、体調万全で観に行かないと健やかな眠りに誘われる。

 完璧な構図で撮影された映像美で殴ってくる「センス打撃殺法」を操る名人のため、彼から影響を受けたことを公言する映画監督が国内外に非常に多くいる。



注2 スティーブン・スピルバーグ(1946年~)

 映画監督、映画製作者。

 代表作は絞り切れないほどある泣く子も黙る超天才・映画監督。

 ミスター・シネマ。ミスター・エンターテイメント。

 ちなみに、FFコッポラ監督やMスコセッシ監督という超嫉妬深い巨匠たちも渋々ながら才能を認めている真の映画の天才である。

 彼が「監督」でクレジットされている作品は、77歳となった今となっても才能衰えずで面白いからズルイ。

 なお、「製作総指揮」でクレジットされた作品、てめぇはダメだ。許さない。



注3 ジョン・フォード(1894年~1973年)

 映画監督、脚本家、映画プロデューサー、俳優。

 『駅馬車』(1939年)、『捜索者』(1956年)など多数の名作をもつミスター・ハリウッド。

 現在もハリウッド映画界の稼ぎ頭にして最大メインジャンルである「バッキュン、バッキュン、ドッカン、ドッカンのアクション映画」の礎を築いた人である。

 キャラクター文芸ならぬ、キャラクター映画をいうべきだろう。魅力的なキャラクターが登場し、それを最大限に生かしたエモーショナルな映像で客を殴ってくる打撃殺法の使い手。

 この超渋くてカッコいい俳優たちがド派手なアクションで魅せるテンプレは、いまなお世界中から愛され使用されている。

 余談だが、最近はインド映画で、この手のものが多い。



注4 デイヴィッド・リンチ(1946年~)

 映画監督、脚本家、プロデューサー、ミュージシャン、アーティスト、俳優。

 独特すぎる芸術作品を作る鬼才・映画監督である。

 個人的には『ブルーベルベット』(1986年)が好きだが、代表作としては『イレイザーヘッド』(1976年)や『エレファント・マン』(1980年)を挙げる人の方が多いかもしれない。

 偏見を承知で言わせてもらうならば、「映画好きです。好きな監督は、デイヴィッド・リンチ」って初対面で言われたら、意識高すぎ高杉君で絶対に友達になれないと思うし、ヤバそうな奴なんで、私は脱兎のごとく逃げ出し心の扉を閉めるであろう。

 いや、私もリンチ作品は嫌いじゃないし好きな方だけど、やっぱ不条理・非日常的すぎて意味わかんねぇーもん。リンチ作品、理解できてるつもりの奴いたら、危ない奴の確率が高いと思う。

 ちなみに、これはゴタール監督作品にも言えることである。初対面で「ゴタール作品が好きでぇ~」とか言われたら逃げる。

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