アルバイト先の美人社員が僕にだけ甘い三つの理由とは…?僕視点では謎すぎる日々…

ALC

第1話十年近くの付き合いの果に

二十五歳、独身、彼女なしの僕だったが夢だけはあった。

いつの日か表舞台で活躍する存在になりたかったのだ。

夢と言っても漠然としたもので…。

人気ものになりたいと言う程度のものだっただろう。

例えば、芸能人でも配信者でも。

何でもいいから有名人になりたかったのだ。

行われるオーディションには片っ端から応募をして過ごす毎日だった。

バイト代が溜まったら機材を購入して配信業を始めようなどと画策している所だった。

今日も今日とてバイト先に向かう昼下がりのことだった。

「おはようございます」

大きな声でホールに響く挨拶をすると全員から同じ様な挨拶が返ってくる。

更衣室で着替えを済ませるとタイムカードを押してホールにでた。

「おはようございます。今日はペアですね。よろしくお願いします」

頭を下げた相手は美人社員と有名な峯田沙里みねたさりだった。

本日のホールスタッフは僕と峯田だけだった。

「おはよう。加藤くん。今日はよろしくね」

笑顔で僕に相対する彼女を目にして僕は他のスタッフの話を思い出していた。

「加藤は峯田さんと仲良いの?」

若い板前さんと休憩が重なった時に言われた言葉だった。

「どうでしょう?関係性が長いだけで特別仲が良いわけでは…」

まかない休憩中に食事をしながら僕はそれに答えていた。

「そうなのか?峯田さんがあんなに柔和な態度取るのって…加藤だけだぞ?俺たち男性社員には大体冷たいから…」

「そうなんですね。知りませんでした」

「高嶺の花っていうか…高飛車な感じしないか?」

「僕は…そんなイメージ無いですね」

「良いなぁ〜。俺も仲良くなりたいんだけどな…」

板前さんの言葉にウンウンと頷きながらまかないを食して休憩時間は終了した。

そんなある日の出来事を思い出していた。

眼の前で笑顔を向けてくる峯田を不思議に思いながら、それでもプラス思考で物事を考えた方が良いと思い込んだ。

「ランチタイムは混みそうですかね?」

世間話の様に本日の業務の内容を話していた。

「うん。金曜日だし…特別ランチメニューを目当てに来る人が多いと思うな」

「そうですね。金曜日はいつもそうですもんね」

「大変だろうけど…アイドルタイムまで頑張ろうね。二人だからあまり休憩にも行きづらいと思うけど…お手洗いのときは我慢しないで言ってね?」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ。鍵開けてくるね」

峯田沙里はそのまま店の鍵を開けに向かうと開店と同時に客はなだれ込んでくるのであった。


僕のバイト先は寿司屋だった。

回転寿司のレーンは存在していたが皿を流すことは殆どなかった。

チェーン店の回転寿司屋と言うよりも少しだけ豪勢なお寿司屋さんと言うイメージだった。

だが一等地の老舗店程、豪勢とは言えない。

回転寿司にしては、かなり高級なネタを使い板前さんが目の前で握ってくれる。

その様な立ち位置だと思ってもらえると助かる。

板前さんも誰でもなれるわけではなく。

しっかりと修行を積んだ人達だけがなれる職業だった。

舌の肥えたお客様の口コミのおかげで、バイト先は毎日繁盛していた。

そんな場所で僕は殆ど毎日シフトに入っていた。

峯田沙里はホールスタッフの女性社員であり、僕よりも一つ下の二十四歳だった。

彼女は就職して二年だが、高校生の頃からここでアルバイトをしていた。

そんな彼女が今では美人社員と噂されるほどの人間になるとは…。

僕も思いもしなかった。

僕も高校生の頃からバイトをしていたので、正味十年近く彼女と一緒に過ごしてきたと言える。

だがその十年で僕らは接近するようなことは一度もなかったのだ。

僕は夢に一生懸命だったし、彼女は学業に一生懸命だった。

それが何の因果か…。

今では彼女は僕にだけ甘い存在へと変わり果てている。

その理由を僕はまだ知りもしない。

「峯田さん」

忙しいランチタイムが終了を迎えるとアイドルタイムというお客さんが殆ど来ない時間はやってきていた。

「ん?なに?」

「なんか…板前さんが言っていたんですけど」

そんな話の切り口に彼女は遅い昼休憩を取りながら小首をかしげた。

「僕にだけ甘いって言っていましたよ。何か特別に優遇してくれているんですか?」

「ん?んん〜。そうかもね。それには三つの理由があるから」

「え?本当だったんですね。三つの理由ってなんですか?」

「それはまだ内緒だよ」

「そうですか」

そんな会話を繰り広げながら僕も遅めの昼休憩に入るのであった。


ここから美人社員である峯田沙里が僕にだけ甘い三つの理由を知るお話は始まろうとしていた。

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