第10話 再会
(再会)
春の風は悪戯坊主。
きれいに整えた髪を一吹きで蹴散らして通り過ぎていく。
時には、スカートをめくりあげて私を慌てさせる。
満開の桜の花も花吹雪となって散っていく。
花の盛りは短いと教えているように……
人の盛りもまた同じと……
そんな春の嵐の中、良一も新学期を迎えた。
周りの生徒は、さっそく新しい仲間作りを始めている。
友達といえるほどの友達がいない良一にとって、どんなクラスの面々でも我関せずと、さっそく配られた真新しい教科書に目を通していた。
人と混ざることを嫌い。いつも一人孤立して遠くを眺めている。
それが良一だった。
「よっ! 良一、また同じクラスだな!」
「……、」
そう言って、良一の肩を叩いてやってきたのが、藤井達也。
極めて明るくひょうきんなうえ、人当たりも良く、人の面倒見もいい。
どちらかというと良一とは正反対の性格の持ち主であるが、その面倒見が良い性格からか、すぐに周囲から孤立してしまう良一をいつも気遣っていた。
友達と呼べるかどうかはわからないが、唯一良一と会話する人物だ。
「どうだい! このクラスは……?」
「べつに……」
「相変わらずだな、俺は嬉しいぜー! また幸恵ちゃんと一緒のクラスになれた」
小声で話す嬉しそうな達也をよそに、良一は眉ひとつ動かさずにひたすら教科書を見ていた。
平静を装っている良一でも、達也と同じようにこのクラスの中に懐かしい顔を見つけたことで、少し驚きと戸惑い、焦り、そんな感情が沸き立ち、何くわぬ顔で意識しないようにつくろうことに懸命だった。
その時、良一の上着の袖をいきなり掴んで……
「ちょっと借りるわよ!」
慌てたのは良一だった。
机の角に体をぶつけながら、驚きに引きつった顔を戻す暇もなく、妙子に引きずられて廊下に出て行った。
湯川妙子、その懐かしい顔の持ち主だ。
「江崎君ちょっと話があるんだけど、今日はこれで終わりでしょう。ホームルームが終わったら第一音楽室まで来てくれる。みんなに変に思われたくないから、私が先に教室を出るから、江崎君は10分くらい後から来るのよ。もちろん一人でね!」
そう言って良一の返事も聞かずに妙子は立ち去っていった。
実は、良一には妙子の話の内容はわかっていた。
そして、その返事も良一はすでに決めていた。
しかし、なぜか声が出せなかった。
それは、もう一度妙子と話をしたいという気持ちが、良一の心のどこかにあったのかも知れない。
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