第3話 医学の研究者として、息子の父親として

(医学の研究者として、息子の父親として)


「江崎……、本当に行くのか?」

 そう言って声を掛けてくれたのは、この大学病院の医局長、そして私の尊敬する大先輩の湯川だった。


「もちろんです! アメリカの最先端の技術で、あと一歩の所の遺伝子レベルの研究ができるというのですから、こんなチャンスを逃すわけにはいきません。今すぐにでも飛んで行きたいくらいですよっ!」


 鉱之の声は喜びに興奮していた。


「お前さんはいいかもしれないが、良一君が慣れないアメリカで一人苦労をするんじゃないかと思って心配しているんだ。難しい年頃だからな。家にも良一君と同じ年の娘がいるが最近は会話らしい会話などした覚えがないよ。同じ子を持つ親として、ちょっと気にかかっているんだが……」


 アメリカに送り出す張本人だからこそ、鉱之の家のこと、息子のことが気にかかっていた。


「良一は置いて行きます。多分、日本と同じで、ほとんど家には帰らないと思いますから、慣れないアメリカで一人よりも、今のまま日本で、一人で暮らす方がいいと思いまして……。それに、今でも良一は一人で自活していますから、私が返って女房の代わりにして面倒を見てもらっているくらいですよ……」

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