第2話 私の一番大切なもの、良一の父紘之の場合
(私の一番大切なもの、良一の父紘之の場合)
私の一番大切なもの。
それは亜希子。お前だよ。
もちろん良一も大切な私たちの息子だ。
でも、一番と訊かれれば、私は迷わず亜希子と答えるよ。
君は、家にいることが好きで、料理をすることが好きで……
「たまには外食でも行こうか」と言うと、君は僕に「何が食べたいの?」と訊く。
僕は「懐石料理なんかどうだい」と答えると……
「それなら私が作ってあげる」といって、せっせと仕度を始めてしまう。
僕は君に少しでも家事から離れて楽をさせてあげたいと思っていたんだよ。
でも、何処で覚えたのか知らないけれど、君の作る料理は、どの店にも負けないくらい美味しかったよ。
庭じりが好きで、家の掃除が好きで、いつも綺麗に磨いていたね。
そうかと思うと、君は縁側に座って庭をぼーと眺めていたり……
あれはいつだったかな。
君が庭でしゃがんでいるのを見かけて、気分でも悪いのかと心配して裸足で駆け寄ると……
君は嬉しそうな顔をして……
「アリが虫を運んでいるのよ」と言ったね。
君は幾つになるんだと口から出そうになってしまったけれど……
僕は君の笑顔に釣られて、そのまま君とぼーとアリの行列を見てしまっていたよ。
そんな君を私は助けられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます