野良犬

あきかん

イントロダクション

 俺の名前は日下部亨。

 日陰者の雑用係。それが俺の仕事だ。受け子に探し物、強盗に運び屋まで依頼があれば何でも受ける。そうしなければ生きていけない。底辺には底辺の生活があり、それを維持するためにも金がいる。どんなクラスに属してようがそこだけは変わらないのが世の中だ。

 しかし、最近は仕事の依頼を受けていない。相棒が亡くなって引き籠ってしまった。

「生きてるか、馬鹿野郎」

 と、ドアを開けて妙齢の女が入ってきた。俺の上役。普段はスナックのママをやっている。

「生きてますかね、俺は」

「何だしゃべれるじゃないか」

「帰ってくれますか」

「馬鹿言ってんじゃないよ。仕事だよ」

「無理っす」

 ああ、帰ってくんねえかな。この人の依頼は毎度毎度大変な目にあう。

「お前じゃないと任せられないんだよ。いい加減、引き籠るの止めたらどうだい」

「自宅警備で忙しいんすよ」

 ぐぅ~と俺の腹が鳴った。

「何か食うか」

「食べる」

 久しぶりに腹がなった。最低限の身なりを整え、ママの店についていった。


 この業界は馬鹿でもできるが、何より信用第一、絶対に裏切らないことが必須条件で、ある意味民間企業よりもそこは厳しい。当然、業界にも俺の噂が流れている事だろう。

 といったことをママに出された飯を食べながら考えていた。出されたのは、お粥だった。卵が混じったお粥を無言で口に運ぶ。止まらない。まともな食糧を食べたのはいつぶりだろう。

「焦って食べるな。見苦しい」

 旨い。生きている実感をする。最後の一口を食べ終えた。

「それで仕事の話なんだが」

 と、ママが口にした。

「その前にすぐにやらなきゃいけない仕事なのか。体を戻す必要がある」

「馬鹿か。すぐやる必要があるからお前を呼んだんだよ。とりあえず、報酬の話からしようか。完全後払い。まあ、お前のようなダメ人間には当然だよな。そして、仕事内容は運びだとよ。」

「物はなんだよ」

「これだよ」

 と、ママは持っていた資料を投げてよこした。

「この写真は女じゃねえか」

「だから、仕事は運び屋だよ。これを目的地まで運ぶんだ。簡単な仕事だろ」

「馬鹿言え。人間と物とじゃわけがちげえよ。報酬はいくらなんだ」

「これぐらいだ」

 ママは三本指を立てる。

「三十万か」

「三万だよ」

「足元見やがってクソババア」

 糞が、なんだこのビッチを運ぶだと、ふざけろよ。

「一応聞くけど、やるのか、やらないのか」

「やるに決まってんだろうが。」

「よしよし、じゃあここに行きな。それがあるらしいよ」

「ここに連れて来いよ。そいつ、歩けんだろ」

「私が目に入れたくないんだよ。クソ厄介な物に巻き込まれたのはお互い様さ」

 これはぼられてるな。ママのしわがグチャっと中央に酔ったのがその証拠だ。

「仕事はするが、成功したらお小遣いはくれるんだろう?」

 と、ママに言ってみた。言うだけならタダだ。

「ああ、期待しときな。それとこれ、駄賃だ」

 煙草をひと箱よこした。スカイピースの6ミリ。まだ覚えていてくれたんだ。

「あと、水を一杯くれないか。それを飲んだら仕事の準備をする」

「ああ、わかったよ」

 と、素直にコップをよこした。俺は煙草に火を点ける。久しぶりのヤニで視界が歪む。思考がぼける。蘇る。

 俺はスナックを出て目的地へと向かう。寒いのは嫌いだ。空っ風に押されて自然と足が速くなった。

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