逃亡
三日月 青
第1話
あと少し、
あと1日ほど逃げ切ることができれば味方の敷地内へ逃げ込むことができる。
追手も来れなくなる。
すっかりやつれた姿になってしまった自分に、鏡越しで言い聞かせた。
もうじきこのホテルも特定されてしまうだろう。もし捕まってしまったらと思うと恐怖で震えと吐き気が襲ってきた。
相棒の最期を思い出し、身震いする。
絶対嫌だ。
濡れ衣ならなおさらだ。
冷水を顔にかけて、気合を入れる。
あれは突然だった。
いきなり俺と相棒が呼び出され、
いや、もはや誘拐と言ってもいい方法で連れ出された。どうやら誰かが情報を流したとか何とか。
只々「尋問」されるだけで、詳しいことは何も教えてくれなかったが、察するに誰かが裏切ったようだ。
でも下っ端の俺らにはたらす情報すらないんだから、俺らへの仕打ちは単なる腹いせに過ぎないのだろう。
と、思っていたのに、
相棒が目の前で殺された。
本気で原因が俺たちにあると思っているのか、誰かしら見せしめにしないとカッコがつかないのか。
どちらにせよあの場で殺されなかったとしても、このままだと俺の命が危ない。
こういう時は早ければ早いほど逃げ切れるチャンスが出てくる。
一か八かの逃亡で、俺は運よくその場からは逃げ出せた。
その場からは。
巨大ではないとはいえ、そこそこの情報網は張ってある組織だ。
どんなに足がつかないよう注意しても、いずれは辿り着かれてしまう。
同じところには最長でも2日くらいを目安に、俺は逃げ回った。
生きてさえいればいい、人間としてのギリギリの生活を送った。
だが、いよいよ持ち金が底をつきそうになり、逃げ場を失ったときに味方は現れた。
彼らの縄張りに辿り着けさえすば生きていけることを保証してくれる最強の味方が。
生き延びることができればよかった俺にはもう彼らに頼るしかなかった。
彼らに来てもらうことも考えたが、それでは途中過程で騒ぎになったり、追手に捕まってしまう可能性もある。
こちらから出向くしかない。
俺がいける場所はいくつかあるらしいが、俺はその中で一番安全そうな場所を選び、そこを目指して逃げ切った。
いよいよ安全地帯に入れるとなったとき、聞き覚えのある声が追いかけてきた。
俺を「尋問」したやつだ。
さっと血の気が引く思いがしたが、すぐに気を取り直した。
ここまできたんだ、絶対に逃げ切ってやる、ゴールはすぐそこの目の前なんだから。
立ちはだかるこの塀を越えれば。
前日探し回り、用意した梯子を立てかけ、よじ登った。
ちょうど塀の頂上を掴んだとき勢いよく梯子が引っ張られ、危うく落ちるところだったが、死に物狂いでしがみつく。
塀の上に設置されたワイヤーで血だらけになったが、そんなかすり傷を気にしている場合じゃあない。
下からの怒号をを聞きながら、俺は瀕死の思いで乗り越えた。
すると火災報知器のような警報が響き渡る。
本来なら恐怖を意味する赤いライトとサイレンが、今は俺を歓迎するようだ。
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もうそろそろ刑期が終わってしまいそうだ。
明日ぐらいにでも暴れてみようか。
死刑にならないほどの罪を重ねれば、一生ここで安全に暮らせるだろう。
逃亡 三日月 青 @mikazuki-say
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