第41話



「やったな!」


 保科ほしなを始めとしたチームメイトと一点を分かち合う。



俺の……俺達の見せ場は作った。あとは洞口ほらぐち、お前の見せ場を作ってやるからな!



 俺は後半戦の目標を決意した。

 1対0点と言う僅差きんさで後半戦が開始される。

 前半戦で疲労が蓄積していたためか、俺達のディフェンスは軽々と突破される。


 しかし人一倍動いていた祐堂ゆうどうも例外ではないようで……前半戦は四人目でようやくブロック出来ていたのに今では二人から三人目で止まる。

 授業の試合としてのレベルは高いと言える。

 テクニカルな部分と激しい攻防が多い試合だから、見ている方はあまり楽しくないだろう。


 後方のディフェンス陣が運動部を止めセンターバックから順々にボールが回ってくる。



 既に体力が尽きかけている俺達にとっては、パスでボールを回して敵を動かし消耗させると言う、消極的防御戦術を取りながら機会を伺う。


 運動部連中の合図で、一点取った時と同じようにサイドから攻め上がる。

 後方から声が上がり振り返ってパスをトラップし、瞬時に周囲を見回し駆けだした。

 再び立ちはだかるのは洞口ほらぐちだった。


 一見、無謀に見える行為だが俺の目的は点を取ることではない。

 俺は真面目にプレイし保科ほしなとの連携で一得点を決めている。

 十分な成果でありこれ以上は死体蹴りに思えたからだ――。



 このままでは、洞口ほらぐちのミスで負けたと言う風に、俺の行動でシナリオ改変がされ恨みを買い最悪刺され兼ねない。

 実際ゲーム版のバッドエンドでは、真堂恭介 オ レ 含めた悪役から包丁で主人公が刺される通称『牙突がとつBAD』があった。

 最近は本気で防刃ベストを買おうか悩んでいるほどだ。



 ――洞口ほらぐちには先ほど高度な技で突破し、ゴールへのアシストをした俺をブロックしてチームのヒーローにすれば、洞口ほらぐちの好感度も幾分か上昇すると考えたからだ。


 目の前には先ほどとは違い二人とも足を止めている。

 オマケに股抜きと言う恥ずかしい突破のされ方がよほど効いたのか、幅を狭め対応できるように学習している。



「――ッ!!」


「……!」


 先ほどと同じく両者向かい合わせで読み合いが始まる。

 明確に違うのは両者のやる気だ。

 恥をかかされたからやり返してやろうと言う洞口ほらぐちと、面倒だから折れてやろうと言う八百長じみた戦いが始まった。


「またファイトリックで突破するつもりか?」

「先ほどに比べ明らかに脚を閉じている。二度目は通用しないよ……」

「もしかしたらさっきはわざとレベルを落していたのかもしれないぞ?」


 データキャラらしき眼鏡の男がクイと眼鏡を持ち上げた。


「本来ファイトリックは、相手の後ろにボールを通して突破する技だ。しかし先ほどは股抜きに留まっている。今回のための布石だったのだ!!」

「なっ! なんだってー」

(なんだってー!)


 まさかそこまで高く見積もられていた事に心底驚いた。


俺エラシコとかそう言う器用さが極度に必要なテクニック、全く出来ないんだけど……クソ! ついさっきまでは頭が下がる思いだったのに今じゃ殺意しか湧かない。


真堂しんどうくん運動神経もいいのね!」

「元々素材はいいもの」

洞口ほらぐちなんかに負けるなー」


 ――と声援が聞こえて来る。

 つい数日前まで俺に向かっていたヘイトは洞口ほらぐちに向いているようだ。

 今回の活躍がいい結果に結びつくといいけど。



 まあでも前世では一度も浴びたことないから気持ちいィ~

 だけど恥ずかしさが出て来たな……あとさっきから『素材は良い』って褒めるだけのボットいない?



  無駄に動くことを想定しファイトリック擬きで突破を試みるフリをする。

 すると予想通り洞口ほらぐちが動いたので、見事にブロックされたように洞口ほらぐちわきを走り抜けて、驚きの表情を浮かべる。


「止められた!」

「スゲーな洞口ほらぐち

「布石を打っていたのは、真堂しんどうだけではなかったということだ」


 データ君は風見鶏のようで状況に応じてそれっぽいことを言っているだけのようだ。



お前の仇名『メガネ』って言わない? 必殺技とか名付けてそう。



 止められると思っていなかったのだろう。

 洞口ほらぐちもフリーズする。


洞口ほらぐち! パスだ!!」


 手を上げてパスを求める味方を無視して、洞口ほらぐちは不格好なドリブルを始める。


「―――なッ!」


 驚きのあまり口をあんぐりと開けてしまう。

 それは俺だけではないようで……


「何やってんだよ! パス回せよ!」


 完全フリーな場所にいた運動部の生徒が感情を露わにし怒りを地面にぶつける。

 洞口ほらぐちはパスを回すと予想されていた分、フリーでサイドを駆け上がる。

 両チームの司令塔から号令が飛んだ。


「「洞口ほらぐちの周りに行くんだ!」でブロックしろ!」


 俺の意図しない形でこの試合の行く末は、洞口ほらぐちに託されることになった。


「あいつホンモノか?」


 つい本音がボロンと漏れてしまう。



もう一度見せ場を作りつつ祐堂ゆうどう以下、運動部にパスを回しゴールをぎ取ればまだワンチャンあるか?



 そんなことを考えながら洞口ほらぐちの背中を追いかける。



字面にすると何だか俺が洞口ほらぐちに憧れているみたいじゃないか!


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