第54話



「はーい。でも料理って切るところが大切なんじゃ……」


「確かに魚の鱗を取ったり、身を卸すことが出来れば料理の幅は広がる……」


「だったら……」


 葛城かつらぎは俺の発言に言葉を被せる。


「でもそれは出来なくても、スーパーでお願いすればやって貰える範囲のことだ。俺からすれば自分でやれば安いから、格好いいからって無駄に気合を入れてるように見えるだけだよ」


「……」


「ほら例えば、洗濯機があるのに洗濯板で洗濯するみたいな……代替案があって楽が出来るなら楽をするべきだと思うな」


「……確かにそうですね。あたし高望みしてました」


「あとは焼いて調味料をかけるだけだ」


 ピコン とスマホの通知音が鳴った。

 ロック画面でも要件がある程度表示されるのでそれで確認する。


鈴乃リノ】「もうすぐ帰るよ」


想像以上に早いな……


 ガチャっと玄関が開く音が聞こえたと思えば、次の瞬間には妹の声がした。


「ただいまー」


 玄関のあたりでゴソゴソする音が聞こえる。

 どうやら荷物が多いようだ。


「お帰り」


 玄関に聞こえるぐらいに声を張る。

 ドアや壁越しなせいでややくぐもった声で会話をする。


「お兄ちゃん何度も言ってるけど、別に料理なんてしなくてもいいのに……お父さんもお母さんも宅配弁当のお金払ってくれるって……ナ〇シュとか美味しそうだよね」


「美味しそうだけど……そう言ってくれるのは助かるけどさ、申し訳ないし……」


「お兄ちゃんホント変わったよね……」


 そんなことを話しているとドアが開いた。


「話したと思うけどコイツが……」


 俺が葛城かつらぎを紹介しようとすると、それに被せるように自己紹介を始めた。


「初めましてアタシ真堂鈴乃しんどうりのって言います。中学二年生です」


「こちらこそ初めまして、葛城綾音かつらぎあやねです。学年はリノちゃんの一つ上だけどよろしくね」


 俺は頃合いを見て料理を出す。


「さぁどうぞ、おあがりよっ!」


 葛城かつらぎが作った料理を含め今日のメニュー俺の大好物のタケノ尽くしだ。

 タケノコとほうれん草のバター炒めには自信がある。


「美味しそう!」


「ほうれん草の彩も綺麗です……」


「今日はタケノコパーティーだ!」


 俺の説明を聞く前に二人は料理に手を付けていた。


「何品か作っていたけど、こんなに簡単で美味しいなんて凄い!」


「タケノコってこんなにおいしいんですね……」


 二人とも満足しているようで箸が進んでいる。

 前世で一人暮らしを始めてから料理をし始めたが、最初の一年は酷かったからな。


「そういえば二人はどういう経緯でであったの?」


 鈴乃リノは不意に俺達が出会った経緯を訪ねた。

 別に隠すようなことでもない……


「学校が始まって直ぐの……あ、ほら二人で焼肉食って帰った帰りだよ」


「あー散歩して帰るって言ってたあの時か……」


「そそ……」


「先輩、あとはあたしから……」


 葛城かつらぎはどうやら自分で話すつもりのようだ。


「あたし、親と仲が悪くて平日は夜遅くに帰って休みの日は友達と遊んだり出来るだけ家に居ないようにしてるんだ」


「……」


「あの日も駅前でフラフラしてたんだけどそうしたら、酔っぱらったサラリーマンとぶつかっちゃってそれを先輩に助けて貰ったんだ」


「……そうだったんですね。アタシもお兄も親からの期待が凄くて……」


「あたしと同じだね……」


「……アタシは良いんですけど、特にお兄は『跡継ぎ』として親戚からも期待されてて中学三年の頃に壊れちゃったんです」


 ……物語前半で真堂恭介しんどうきょうすけのテンションが、おかしかったのは精神を病んでいたからだったのか。


「……」


「知ってますか? 薩琉さつりゅう学園って?」


「中高一貫の名門私立でしょ六勲校りくくんこうよりも偏差値が10は高い」


 原作では、お坊ちゃん・お嬢様が通う私立高校として登場していた。

 プライドの高い洞口ほらぐち井川いかわが取巻きに居たのにも、キチンとした理由があったんだな。


「……はい。元々お兄はそこの生徒だったんです。でも周囲からのプレッシャーと同級生に妬まれて……高校へ進級を気に提携している瑞宝ずいほうに入学したんです」


 原作開始時点でスレていたのはそれが原因だったのか……


「そんなことが……」


「出来損ないとお兄を罵ってから父母は一度も家に帰ってきていません。アタシにも「出来損ないには関わるな」と言ってたぐらいでしたから……」


 原作で妹の存在が言及されなかったのは、必要が無かったと言うのも大きな理由だろうが恐らく自暴自棄になった真堂恭介しんどうきょうすけが冷たく突き放した。

 それによってより、悪循環に陥ったのだろう。


「父も母も政略結婚ですから愛情は無いんですよ。仕事として子供を二人も作った。金を渡し口を出すから結果を出せと言う勝手な人達なので二人とも、今頃は愛人と宜しくやってるんじゃないですか?」


「……御両親のお仕事は?」


「弁護士と医者です……と言っても弁護士をやっている父は祖父の秘書をやっていますが……」


「秘書?」


「……祖父は政治家をしているので、真堂大介しんどうだいすけって訊いたことありませんか?」


「ごめんなさい」


「まあ、普通の学生は政治家の名前なんて知りませんよね……でも私は嬉しいんです。昔から父母の教育方針でアタシは、親元でお稽古尽くしお兄は勉強尽くしで会うのは長期休暇だけでしたから、アタシのワガママで一緒に暮らしてからも、暗い顔ばかりだったのにこの二週間はお兄が笑顔を浮かべてて……」


「……」


「だから迷惑なんて思わないでください。あなたのあなたたちのおかげで兄は変われたんです……」


「あたし、ばっかり救われてると思っていたのに……あたしも先輩の助けになれてたんだ……」


 雫がポタポタと机に落ちた。

 葛城かつらぎは涙を浮かべているようだ。


「よかったら明日一緒に遊びませんか?」


「うん、うん……」


 二人とも学生が一人で背負うには大きな荷物を背負っていた。

 人に思いの丈や愚痴を吐いた所でその重さは変わらない。

 だけど、心が少し軽くなる。

 似た境遇を持つ俺達三人にとっては、理解者がいるだけで背負うものが少し小さくなった気のなる。


 事実はどうだっていい。

 軽く感じるだけで十分じゃないか。

 俺は真堂恭介しんどうきょうすけに憑依しているだけの成人男性でしかない。

 だから彼女達を支える事はできても共感し理解することは出来ない。


 成島なるしまさんと同じように、共感し理解してくれる存在が必要だと考えていたが、どうやら二人は互いにそう言う存在になったようだ。


「ねぇ綾音あやねちゃん今日止まっていかない?」




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『あとがき』


 GW期間中、ためにため込んだ未完作品を短編or中編として公開し、その中から一番星を獲得した作品を元にした連載検討します。

 目標はは大きく星50ですかね……

【短編中編集へのリンク】

https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291


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