第35話



 忙しなく動いている生徒会室に戻ると、我がクラスのクラス委員長の若松わかまつ姉弟と目が合った。


真堂しんどうお前も有志の手伝か? マメだな……」


「いや。洋宮ひろみや先輩に呼ばれたからだ」


「ああそういうことね……」


 若松弟は納得したとでも言いたげに呟くと、志乃亜しのあさんが話しかけて来た。


真堂しんどう君も今日から仕事してくれるの?」


「そのつもりだけど……」


「そうなんだ。そんなに焦らなくてもいいんだぞ?」


「そう言う訳にもいかないよ。まあ色々迷惑かけてるし罪滅ぼしって訳じゃないけど頑張るよ」


「入学してから印象が一番変わったな真堂しんどうは……正直過去のボランティア活動の履歴の整理とか大変なんだよ」


「わたしハウスダストアレルギーで、埃が付くと直ぐに痒くなるから助かるよ」


「じゃぁ埃が舞うような仕事は俺がやるからシノアさんは他の仕事しなよ」


「あ、ありがと……じゃあお願いね」


 少し戸惑いながらも志乃亜しのあさんはこの場を後にする。


「まあクラスの中でも数人はお前が悪い奴だなんてもう思ってないけどさ他は違うからな……」


「だろうな」


「サボらず真面目に仕事に励んでくれれば名誉挽回に繋がるとおもうぞ?」


「忠告ありがと、なら余計にさっさと終わらせないといけないな」


 契約のように参加希望の用紙を提出した訳じゃない。

 この場に居るのは自分の意思で参加している人間と、クラス委員の仕事として参加している人間だけだ。


 だからと言って俺は逃げ出そうとは思わない。

 なぜならこれは、俺が歪めた物語だから。

 責任を持たないといけない。


「じゃあ倉庫になってる空き教室に移動しようか……」


「ところで……空き教室ってどこにあるんだ?」


 男二人廊下を歩く、部活動だろうか廊下を歩いて移動する人や校庭でサッカーや野球をしている姿が見える。

 ボランティア活動の手伝いをするのに、なぜ倉庫になっている空き教室に向かう必要があるのか、訊いてみたいが今の俺にはそれを訊く立場にない。


「旧校舎だよ」


 旧校舎。

 その言葉はフィクションにおいて大きな意味を持つ。

 学校の歴史をその一言で感じさせ、オカルト話や部活などの組織の特別感を演出するのにも一役買うそんな場所。


 転生前の母校にも旧校舎はあったが、職員室とか各教科の部屋が一纏めにされていることが多く、決してミステリアスな場所ではなかった。


 しかし、ここはフィクションを元にした世界。

 どうやら夢と希望はあったらしい。


「ここが旧校舎の空き教室。学校広報のバックナンバーが置いてあるそうだ」


 無駄に鎖で施錠された部屋の南京錠に鍵を入れて回すと、ガチャ、ガチンと音を立てて開錠される。

 リアルでは、体育倉庫か自転車ぐらいでしか見たことがない南京錠。


 南京錠と言えば、昔見たアニメでゴシックドレスを身に纏い、胸元に錠前を付けたキャラが居たな……となんだかセンチメンタルな気分になる。

 じゃらじゃらと音を立てて鎖が垂れ、ギギギギとやたら建付けの悪そうな音を立ててドアが開いた。


「酷いな……」


 カビと埃と古い紙やインクのニオイが充満した部屋は、埃が舞っている。

 段ボール、段ボール、段ボール、段ボール、段ボール、段ボール。


 教室一つの中に適当に、うず高く積まれた段ボールがが壁を築いている。

 しかし同じ大きさの箱が使われている訳ではなく、大きさはバラバラ。その様子はテトリスなどの『落ち物パズル』を思わせる。

 

 後のことを考えていないのか頭上――俺の身長が約180㎝――よりも高く積み上げられており、「アンタ馬鹿ぁ!?」と心の中のアスカがツッコミを入れる。



 もう完結したんだから心の中にも出張って来ないでほしい。その役目は古の人気要素を詰め込んだ令和の新星である『ミスパーフェクト』に譲ってやってくれ。



閑話休題それはさておき


 兎に角開けた場所が少なく、モノだらけで移動を制限され身動きがとり辛い。

 適当に放り込まれたと思しき物品などが剥き出しで置かれている。



 もしかしてここは開けてはいけないことで有名な『パンドラの箱』なのかもしれない。ということは逆説的に一筋の希望があると言う訳で……



いかんいかん。余りの出来事に思わず現実逃避してしまっていた。


一体いつどこで使われたモノなんだろう……


 これを片付けるのは骨が折れそうだ。

 使えるかもしれないor使うモノがあるかもしれない以上、雑に扱うことはできない。壊れるかもしれないからな。

 余りの光景に心が折れそうになる。


「もしかして……これをどうにかするのか?」


「その通り。俺達の仕事は過去のボランティア活動の活動先とどんなことをしたか? の確認のための資料を探すことだ」


「電子化してクラウドで保存しておけよ!」


「まあそう言うなよ。先ずは片付けだ」


「……しかし何でこうも散らかってるんだ?」


 俺は目の前の光景に嫌気がさした。

 正直、誇張抜きで歩きにくい。

 我が校の歴史(物理)が段ボールに物理的に詰まっている。


 前世の経験から言って多分段ボール一つで半年分、つまり一年で段ボール二つとなる。

 瑞宝学園高等学校が創立から……ダメだ脳が思考を放棄する。



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