第34話


 この女マジだ……


「の、ノーコメントで……」


真堂しんどうくん。あなた生徒会役員になるつもりはない? 生徒会を一季つまり半年やるだけで部活動三年分の内申点が貰えるのよ。副会長や会長ともなれば大会で入賞したレベルが貰えるの」


 洋宮ひろみや先輩の提示する旨味とは、生徒会役員であるらしい。

 確かに部活動と考えれば、内申点のコスパは非常にいい。

 だけど……


「悲しいかな俺には、人望がありませんので……」


 そう。今の俺には人望がないのだ。


「クラスでのことは訊いているわ……入学早々やらかしたんですって?」


「まあ……はい」


「歯切れが悪いわね……」


 未だに俺が憑依する前の真堂恭介しんどうきょうすけが入学早々何をやらかしたか知らない。

 訊けば良いと言われればそれまでだが、うまく話を切り出す方法を思いつかない。


 逆に俺だけ知らなければ、善行を積んだ時に一件憑依する前の真堂恭介しんどうきょうすけが悪いのだが実は……と箱の中の猫状態で観測して確定するまでは無数の可能性があるのではないか? と淡い希望を抱いている。


「まあいいわ。やらかしも生徒会の仕事をしていけば風化すると思わない? 選挙まで時間はないけれど先ずは生徒会の補助役員として仕事をしなさい」


「補助役員ですか……」


「そう。好意で手伝ってくれている有志の生徒よりも扱いも名目上は上の扱いで……そうね生徒会長が任命する臨時の役員でどうかしら?」


「どうと言われても……」


「鈍いな真堂しんどう君は……」


「新生ボランティア活動を生徒総会で提案後その功績を認めた私が生徒会役員補助として推薦、新生ボランティア活動を成功させた。これだけの功績をオマケに付けてあげるって言ってるのよ」


「……俺のデメリット少なすぎじゃありませんか? それに俺が生徒会役員に落ちたらその筋書き通りませんよね?」


「問題ないわよ。私来季の前期生徒会選挙に出馬するもの」


洋宮ひろみや先輩受験生ですけど大丈夫ですか?」


「私成績もいいし実績・・が大きくなると思うから指定校推薦で難関大学も余裕だと思うの」


 実際問題、指定校推薦と彼女の学力があれば難関私大にも合格できると思う。

 

「楽観的ですね……」


「ふふふ、そのために君に頑張って貰うのよ」


 これ以上、憑依前の悪評を垂れ流されては溜まったモノじゃい。


「あまり頑張りたくはないです……」


「同意するわ。でも君は大人になる……大人として振る舞う時と場合を学ぶべきだと私は思うよ」


「……」


「じゃあ引き受けてくれるのね」


 入学早々悪印象を持たれていた俺が、ボランティア活動に積極的な発言をしたものの言うだけ言ってはい終わりだと今までよりも印象が悪くなりそうだ。

 洋宮ひろみや先輩の提案を受け入れるしかないだろう。

 

「燃えないようにするにはそれしかないでしょう……」


洋宮ひろみや先輩はどうして俺をこんなに買ってくれるのだろう? 俺がした事は大した事がないなんて言う積りはない。


 だけど俺と彼女が顔を合わせたのはこれで三度目。

 殆ど他人と言っていい程度関係だ。

 洋宮ひろみや先輩は多分、俺の与太話に本気になっているのだと思う。

 耳障りの言いだけどギリギリ実現できそうな理想論に、だから言いだしっぺの俺を携わらせたいのだ。


「じゃぁこれからよろしくね真堂しんどう君」


「仕方ありません。洋宮ひろみや先輩の脅し提案を受け入れましょう。よろしくお願いします洋宮ひろみや先輩」


 そう言うと俺は差し出された手を取る。

 女の子らしい細く白魚のように白い肌は、クリームでも塗っているのかしっとりとしている。

 

「じゃあ早速だけど仕事をしてもらおうかしら。あ、新藤君。同級生から先輩まで色んな学年の色んな部活の女の子がいるからって見境なく声かけちゃダメよ? 結構女の子は見るから、特に密室で変な気起こしちゃだめだから」


 握った手は離され彼女の手を握っていたことを示す体温だけが手に残る。

 洋宮ひろみや先輩は椅子から立ち上がるとドアの方へゆっくりと歩き出す。


「安心してください。俺、紳士なんで……」


「その紳士って頭に変態って付かない?」


「あははははははは……バレました?」


「バレましたじゃないわよ。私の太腿ふともも見てたでしょ? 男の子のチラ見は女の子のガン見。まあ真堂しんどうくんのはチラ見どころじゃなかったけど……」


「今日はブリ大根……でも今は春だし……」


 ガラリと音を立てて引き戸が開いた。

 洋宮ひろみや先輩は振り返るとこう言った。


「春ならヒラマサがいいだろう。私の個人的な好みだが豚肉も美味しいと思うぞ」


やっべ、全部聞かれてた。


 俺は洋宮ひろみや先輩の後を追う様に教室を後にした。


 ――こうして俺は、自分の始めた活動にケジメを付けるために生徒会の補助役員として、準備に参加する事になった。



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