第29話


 学校指定のジャージを舐めていた。

 版権イラストやコスプレオプションに存在するものの、「誰がありがたがるんだ? 学生趣味のおじさんか? いやそれなら制服でいいよね?」と今の今まで考えていた。


 しかし、非日常の中での学校指定のジャージと言うものは妙なギャップを生じさせる。

 この一週間で見慣れた家のリビングルーム。

 そのソファーの上に湯上りで色っぽい、読者モデルで巨乳美人でつい数ヶ月までJCだった現役JKが居る。


 端的に言ってこれはヤバイ。


 美人で他人とは言え血の繋がった妹相手には、あまり欲情しなかったからタカを括っていたが、スタイル抜群で美人の女子高生それも風呂上りの妙な艶めかしさを嫌でも感じさせられる。


 胸が大きくむちっとしながらもくびれのある柔らかそうな肢体は、運動からくるのであろう臀部でんぶには確かな肉感を感じる。

 太腿は少し太めながらも、全体的にすらりと長く美しい。


 なるほど確かに、これだけの身体に制服と言う枷があってなお歴戦の痴漢親父には見抜かれ触られるのも頷ける。

 だからこそ、あの日以来のように普段は確りメイクをして近付き辛いようにガードを固めているのだろう。


「お風呂ありがとう」


「お、おう今洗濯機回してるから乾燥まで一、二時間ぐらいかな……」


「ああ……だいぶかかるね……」


「どうぞインスタントだけど」


「ありがとう」


 あまり成嶋なるしまさんの方を見ないようにして、来客用(基本的に鈴乃リノの友達用らしい)の少し大き目のマグカップ並々と注いだインスタントコーヒーをソファー前のテーブルに置く。


「そうだ折角だし何かしようよ」


「何かって言っても何をするんだ?」


「そうだ真堂しんどうくんってゲーム機もってる?」


「一通りは……Button'sとPZ5……」 


「私持ってるのButton'sだけだよ」


「まあ小中学生がメインで遊ぶゲームはButton'sで賄るからね……」


 今時複数ハードでゲームが出るなんて当たり前のことで、一つのハードを持っていれば発売の遅さはあれど、遊べないということは殆どない。

 女の子がメインで遊ぶようなライトゲームは、Button'sで十分だろう。

 今世……つまり悪役である真堂恭介 お れ はなぜ複数ハードを持っているのだろう? 創作物から現実になった時に補完された部分なのだろうか?


「そうだよね……男の子はゲームハードにお金かけるけど女の子は『ざわめけアニマルの森』とかぐらいしか遊ばないもの」


「『ざわ森』かは守備範囲外なんだよ……ポ〇モンとかは万里夫まりおはやるんだけど……」


 オンライン対戦要素のあるゲームは基本的に好きだ。


「そうだよね……それに、受験期間はゲームはあまり遊ばなかったからあんまりやりたいって思わないのよ」


「俺の場合は反動で昼夜逆転してやっちゃうタイプだけど……あっそうだ折角だから、パーティーゲームでもやらない?」


「私、負けず嫌いのわりにゲーム苦手だから遠慮しておくわ。それに私の場合、時間を潰すためのゲームばっかりだからやりこまないのよね」


 そう言った彼女の顔は物悲しそうだった。


ああ、下手だけど勝つまで「もう一回、もう一回」って強請って友達からやりたくないって言われたんだろうな……


「別に俺は気にしないけど……」


「ううん、いいの……それにさっきから少し気分が悪くて……」


 それって長風呂のせいでのぼせてるだけ……いや気圧の変化によるものだろうか?


「ああ、雨の日に体調崩す人って多いよな、ウチの母がそうなんだけど……」


 ――と母親がそうだから気にするなとフォローを入れる。

 まあ実際真堂恭介オ レの母親が体調を崩すかどうかは知らない。原作にもそんな描写はないし、この数日のやり取りでもしらない。


「普段はそんなことないんだけど……特にアノ日が重なると重くなるのよ……妹さんはどうなの?」


「妹の生理事情を事細かに把握している兄とか嫌でしょ……」


「確かにそうね」


 同意するなら質問するな。


「常備薬ならあるけど要る?」


「ありがとう貰っていいかな?」


「どうぞ」


「ごめんね。具合悪い時、私ワガママで甘えん坊になるみたい……迷惑だよね?」


 甘えるような上目遣いで真っ直ぐに俺の目を見据えてくる成嶋なるしまさんに、俺の理性は炎天下の下のソフトクリームの如く物凄い速さで溶けていく……


色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき。煩悩退散、煩悩退散。


 毎度毎度、円周率や素数を数えていても仕方がないので今回は仏法に頼っることした。


「迷惑なんて思ってないよ。ほら、俺達友達だろ?」


 「俺を頼れよ」ぐらい言えると良かったのだが生憎と俺にそんなキザなセリフを言えるほどの度胸はない。

 むしろ痴漢被害者と助けた側という関係が無ければ、関わる事さえなかったであろう美少女に甘えられているとい事実だけでもお釣りがくるれべるだ。

 それもこれもこのラブコメ世界が原因なんだろうけど……


「……ありがと」


 照れたような安堵したような、困ったような柔和な表情を浮かべて起こして上体をソファーに伏せる。

 年齢不相応な大きな胸のせいかやや上半身が浮いているようにも見えた。


やっぱり、真堂恭介オ レはどこまで行っても真堂恭介あくやくのようで、成嶋なるしまさんを困らせてしまった。


「気を付けないと……」


 あと数時間どうやって時間を潰そうか……

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