悪役の俺が二人の女の子とデートするんだが

第19話



「おつかれさま。成嶋なるしまさん」


真堂しんどうくんもおつかれさま」


 互いに言葉を交わすと成嶋なるしまさんの方へ近づいていく。


「よかった。今日はいつもの車両じゃなかったから時間が違うかと思ったよ……」


「別に私に気を使わなくてもいいのに……」


「今日は随分とお疲れみたいじゃない」


「よくお分かりのようで……」


「今日の説明会そんなに大変だったの?」


「まあ準備のそれなりに時間が掛かったけど、大きな声で威圧してくる先生がいて精神的に少し疲れたよ」


「それくらい判るわよ。後ろの席だし……それに真堂しんどうくんのことはよく見てるから……」


 実際のところは、課題と資料作成オマケにご飯の支度と推しの少女葛城綾音かつらぎあやねを拾ったことが大きいのだが、それを痴漢被害にあったばかりの彼女に伝えるのははばかられた。


「問題児で悪うござんした」


「問題児とまでは言ってないけれど自覚はあるのね……」


「まあな……」


 高校で習ったことの多くは忘れてしまっている。

 今でも鮮明に覚えているのは趣味の歴史系ぐらいだ。


「本当によく瑞宝学園ウチの学校に受かったわね」


「本当にどうやって受かったんだろうな……」


 原作でも成績があまり優秀でなかった。

真堂恭介しんどうきょうすけ本当にお前はどうやって入学したんだ?


真堂しんどうくん……貴方ねぇ……」


「数英に関しては成嶋なるしまに世話になりっぱなしだもんな……俺」


「問題集のコピーあげたでしょ? ミスがなくなるまで繰り返しやるのよ?」


「ママか!」


「まあ現状は似たようなものかしらね。痴漢から守って貰った時以外真堂しんどうくん役に立っていないもの」


「ガーン!」


「ふふふふふ、冗談よ」


「でもたくさんの問題集をやるよりは一つの問題集を間違えなくなるまでやったほうが効率がいいのは事実だと思うわ」


「まあでも基礎さえ終わらせれば目標にしている大学の過去問解いた方が効率的な気がするけど……」


「おバカ! 基礎は裏切らないわ」


成嶋なるしまって案外脳筋なんだな……」


「私みたいに体形を維持するためには鍛える必要があるのよ」


「やはり脳筋だったか……」


「それに学歴は武器になるから」


「確かにそうかもな。成嶋なるしまさんの身体絞れてるから一定の説得力は感じるな……」


「人の身体みて説得力を感じるな! あとどこみてんのよ! 変態!」


「男は皆変態なのさ……でも保護者ポジションの成嶋なるしまさんならスルーしてくれると思ったのに……」


「出来るかバカ!」


 こうして互いに数駅分、口を利かなかったのだが……


「まだ一週間もたってないけどあれから何か進展はあったか?」


「ええ、今週の土日に弁護士さんの事務所に伺って依頼することにしたわ」


「一応、解決したみたいで良かったよ。男性恐怖症まで行かなくて本当によかった……」


真堂しんどうくんには感謝してもしきれないわね」


「俺も成嶋なるしまさんには感謝してるんだ。お互い様だ」


「ふふふふ、私に気を遣わせないように変なこと言うのね」


「茶化している訳でも気遣っている訳でもない。本心だよ……悩んでいる時に君が現れた。まさにそれはお釈迦さまが垂らしてくれた蜘蛛の糸のようだった」


「あら、まるでミュージカルで告白される時みたいなクサい台詞ね……」


「ぐ……確かにクサい台詞だった。すまん」


「別にいいわよ。だから今日は気分がいいの折角だから学校につくまで私の話に付き合ってくれないからしら?」


「もちろん」


「あの時どうしてたすけてくれたの?」


「あそこで見捨てたら自分が……自分でなくなる気がしたから?」


「何それ中二病って奴?」


「当たらずとも遠からず?」


「あははははっ何で疑問形なのよ……」


「説明が難しいからかな、あの時成嶋なるしまさんを見捨てていれば僕はクラスで浮いた存在から、不良とか悪人に落ちるんじゃないかって思ったんだ」


「考え過ぎよ」


「……そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれないあの時行動したから成嶋なるしまさんはこうして通学できているし、俺は道を外れず踏みとどまれたんじゃないかって思ってる」


「……」


「自分本位の自分のために君を助けた俺を軽蔑するかい?」


「はぁ……」


「するわけないでしょバーカ!」


「私だって痴漢とか犯罪に……助ける為でも関わりたくないんだもの真堂しんどうくんがそう思っていたって不思議じゃないわよ……でも少しだけがっかりしたわ」


「う゛っごめん」


「お母さんに相談するまで私にとって、あの時の真堂しんどうくんは王子さまだったわ。でもそれは弱っていた私の心の防衛機能だったみたいね……」


「え?」


「君のために……って少女漫画のイケメンみたいな恥ずかしい愛の言葉を優しく囁いてくれれば今頃真堂しんどうくんの彼女だったかもしれなかったわ」


「え? えええええ」


「残念だったわね真堂しんどうくん」


 そう言った彼女の顔は夕焼けのせいか酷く赤かった。


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