入学して一週間も立っていないのに既に嫌われ者なんだが

第6話



 昨日の駆け込み乗車を思い出し、早めに家を出た俺。

それでも予想以上の人混みではあったが、周囲もなんとなく心(時間)の余裕を感じさせる。


 昨日よりも早い時間の電車に乗り込むことに成功。

流石に座席の空きはないものの、パーソナルスペースを侵されない程度の余裕はある。


 周りの乗客の殆どは同じような高校生とスーツ姿の大人だが、中学生や小学生!も居る、空気感・香り?もいい。

朝の殺伐とした感じがないこの時空間最高すぎ。

早起き苦手族からの脱却を決意するに足る十分な理由となろう。



 車両にあるドアとシートの間の、人一人が立てる空間に背中を預け、スマホでお気に入りのWEB小説のページを開く。

 

 この世界に来てから追い始めた流行りのWEB小説を読んでいると、ちょんちょんと肩を叩かれる。


はて? 誰だろうか?


 スマホに落としていた視線を上げ、叩かれた方を向くと、澄まし顔の成嶋なるしまが立っていた。


「やぁ、おはよう成嶋なるしまさん」


「おはよう真堂しんどう君」


 登下校で見つけたら、自分から声を掛けようと思っていた成嶋なるしまさんから逆に声をかけられて驚いた。

何を話そうか考えていたハズだったのに、急に声をかけられ全て飛んでしまった。


 会話が続かない。


 向こうから声をかけて来たのだから、何か話題を提供してくれると嬉しいのに、成嶋なるしまさんは何も喋ってくれない。


お互いに顔を見つめ合うばかりだ。


 お見合いかな? 経験ないけど。


よく見ると成嶋さんの目元は少し赤くなっていた。


「メイク変えた?」


「え?」


「ドファサルメイクっていうんだっけ? 

韓国系の目元を赤くするメイク。それにしたのかなって? 

俺、流行に疎いけど この前リールに流れてきたから流行りなのかなと思って……」


ヤバい! 昨日の泣き腫らした目元のイメージが強すぎて、そこに触れてしまった。


 取り繕うためにマシンガントークをしてしまう。


「昨日は時間が無くてメイクが薄かったのよ。

さらにメイクが崩れちゃってたし、今日は通常営業よ」


 確かに昨日に比べ、バチバチにメイクが決まっている。

昨日よりもオーラがあって綺麗だ。


「昨日は良く眠れた?」


「少し寝不足だから、化粧のノリが悪いのよ……」


「寝不足だと毛穴開くて漫画で見た事があったような……」


 少年漫画でヒロイン? が敵の生徒に言っていた台詞を思い出した。 


「いつもこの時間に登校しているのか?」


「いつもはもう少し遅いわね。昨日のことがあったから今日は早めに登校しようと思ったの、だからより一層寝不足で……」


 そう言って「ふゎわわわ」と欠伸をする。


「そっか。『昨日は眠れた? 大丈夫?』って話を今日会った時に話そうと思っていたんですよ。

今日はリラックスして寝てください」


「そうするわ……」


「それにしても、この時間の電車はそこそこ空いてる。人の混み具合が全然違う」


「そうね。早い時間はJKとOLが多いから、おじさんや男性はあの時間が多いのよ」


 なるほど! 良い空気感・香りの原因はそれだな。


「なら、いつもは痴漢被害とかは少ないんだ」


「そうね。私は数回しか被害はないけど、直接触られたのはアレが初めてよ。気持ち悪すぎて声も出せなかったのよ」


 確かにあのおっさんは気持ち悪かった。

 確かにアレに触られたらキモさ100倍だろうな。


「この時間でもシーズンのせいなのか早出の人が多い事があって、時々混むのよ」


「それは大変だね。電車も空いてるし、俺もこの時間の登校にしようかな?」


「それがいいと思うわ。昨日の時間はギリギリ過ぎるし、遅いと物凄く混んでるから」


「一番の理由は成嶋なるしまさんが痴漢されても助けられると思うので、暫くは早起き頑張ろうかな……」


 早起きが苦手とは言え、シリアル以外を食べようとすれば早起きが必須になるので、それが少し早起きになるだけだ。

 「早起きは三文の得」と言うけれど、日本円換算すれば大した金額ではないが、朝の時間は他の時間の5倍ぐらいの価値がある(当社比)からな。


 夜は不良娘を探しに行かないといけないし。


「無理しなくてもいいのよ?」 


「俺が好きでやっていることなので気にしないで」


「……ありがとう」


 頬を赤らめて顔をそむけると、言葉短くお礼を言う。


 あら、ちょっと可愛い。


 だけどこの世界には心に決めた推していた女性がいる。

『幼馴染を寝取られたので努力したらハーレムが出来た件』のヒロイン枠の『葛城綾音かつらぎあやね』が実存する筈なので本気になる事はない。


「気にしないでよ。俺の自己満足だし……」


「そう? でも私のことを考えてくれている訳だし、お礼を言わないのは失礼でしょ」


 確かにそうかもしれない。

 

「ねぇ昨日はアレから何してたの?」


 それから俺達は、学校までの間電車に揺られながら雑談に花を咲かせる。

 気が付けば学校の最寄り駅に到着していた。

 俺達は一緒に電車を降りて、学校への道を急いだ。



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