或いは誘蛾灯のような
鷹槻れん
幽現屋①
蒸し蒸しとして、じっとしていてもじっとりと汗ばんでくるような夏のある夜。
エアコンのないボロアパートに住む僕は、あまりの暑さに耐えかねて、ふらふらと街へ
どこか適当な店で涼めたら。
そんな気持ちで歩いていたら、入ったことのない路地に目がいった。
(こんな道、あったかな……)
見覚えのない
その光に誘われるように、ふらふらとその小道へ足を踏み入れると、チカチカと点滅するスポット照明に照らされた、アンティーク調の小さな
看板には『Antique Shop Yugen-ya』と、か細い筆記体で書かれていた。
アンティーク調の扉には『Open』と書かれた札が掛かっていた。
「ごめんください」
僕は恐る恐る木戸を開くと、店内に向かって声をかける。
扉を開けると同時にひんやりとした空気がこちらへ漏れ出してきて、とても心地よかった。
僕は涼やかな冷気に誘われるように店内へ足を踏み入れる。
ドアを開けたときに、上部に取り付けられたドアベルが、カランカランと乾いた音を立てたこともあり、奥の方から長い黒髪の、美しい女性が顔を覗かせる。
年のころは
僕より数歳程度年上に見える彼女は、落ち着いた大人の色香を感じさせる
「はぁーい」
彼女はそう答えると、僕を認めてにっこりと微笑んだ。
清楚な白のワンピースの上に、ブラウンの胸当てエプロンを身につけた彼女は、僕をじっと見つめると、「涼しくなるアイテムをお探しですね?」と言った。
「え?」
そもそもここが何を
それなのに告げられた、彼女の半ば確信めいた物言いに、僕は思わず
「家、お暑いんでしょう?」
「……は、はいっ」
「それで、ここには涼みにいらっしゃった。……違いますか?」
僕の目を、吸い込まれそうに深い
情けないことに、全く
僕は恥ずかしくなって、思わず顔を
しばし後――。最初に沈黙を打ち破ったのは彼女だった。
「あ、申し遅れました。
言いながら細く白い指に挟まれて差し出された名刺は
まさか
それに、何より彼女は美しかったから。
「あ、ぼ、僕は……
あいにく名刺は持ってきていなかったので、とりあえず名乗りだけ。
緊張して舌を噛みながらしどろもどろに自己紹介した僕に、久遠さんがくすり……と笑う。
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