魔王と勇者の娘が家出して一緒に逃避行する話

岡田遥@書籍発売中

第1話 まおうとゆうしゃのむすめ

 魔王軍と勇者一行の戦いは激化の一途を辿っていた。

 魔王軍は異界から名のある魔獣を召喚し次々と傘下に加え、勇者たちもまた力のある魔導士たちを仲間に引き入れた。

 両陣営は拮抗していたが、そんななかで唐突に、魔王軍に勝機が訪れる。

 勇者の大切な一人娘を連れ去ることに成功したのだ。


 彼女を人質にすれば、勇者を誘き寄せることも、降伏させることも、痛めつけることもできる。

 戦局は完全に、魔王軍へと傾いていた。




 かくして、牢にて。


「……ねえ、隣の人」

「……誰?」

「隣の独房に入れられてるもんだけど」

「なんか用ですか?」

「あんた勇者の娘なの?」

「は?だったら何」

「態度わる〜」

「あんたこそ誰」

「魔王の娘」

「は?」

「反抗期でパパの玉座ぶっこわしたら牢にぶちこまれた」

「なにそれウケる」

「あんたは何で捕まったの?勇者の一行って普段は超安全圏の王都にいるんでしょ?」

「家出?」

「は?」

「だってパーティーのやつら全員超過保護で家から一歩も出してくれないんだもん。だから逃げ出してやった」

「そんで捕まるとか超ウケんだけど」

「うざ笑。てかあんたも捕まってんじゃん」

「それな!てかふつう勇者の娘と魔王の娘隣の独房いれる??手下の奴ら頭沸いてね??」

「マジ思ったそれ!つーかそっちの手下に一人やばいほどのハゲブスいない?」

「言うなってwwwwあいつハゲ気にしてんだから」

「特定できてんのかわいそすぎ笑。てか、そういえばあんた名前は?」

「……ギャングスタ・ロックスカルバーン」

「名前悪役すぎwwwwwww」

「うっざ。あんたは?」

「真帆」

「は?可愛くてむかつく」

「……ロックス」

「え?」

「ぎゃんぐすた、ろっくすかるばーん、でしょ?長すぎるから省略」

「……」

「だめ?」

「……いいけど」

「ロックスはお父さんと仲良い?」

「よかったら独房にぶちこまれてねーわ」

「だよね。私も、仲良くない……てか、最近顔見てない」

「うちの親と戦争してっからじゃね?」

「それもあるけど、たぶん、あの人父親向いてない」

「毒舌〜……でもわかる」

「カリスマ性あって、みんなから求められて、それに応えられるけど、たった一人に愛を捧げられない」

「うちの親もそんな感じ。部下には慕われてるけど、家庭は適当。外面だけってかんじ」

「父親って勝手だね」

「………このまま二人で逃げちゃう?」

「え?」

「あんたとは、なんか気合うし、このまま殺されちゃうの惜しいって言うか……いやっていうか……」

「ロックス…」

「まあどうせすぐどっちかに捕まるだろうけど、それまで束の間の逃避行ってことで」

「……あり。でもどうやって」



ばきっ


「……」

「パパの鋼鉄の玉座ぶちこわしたんだから牢破れないわけなくね?」


 牢を抜け出た二人は、そのまま水路を辿り、海に出た。月明かりに初めて照らされた互いの容姿をまじまじと見つめ、二人はほとんど同時に吹き出した。


「ロックスが思った通りの悪役顔で笑ってる」

「真帆こそ。お姫様みたいな清楚顔のくせに口悪すぎんの何」

「どこいく?」

「どこでも」

「あそこ船ある」

「ラッキー、パクってこ」


 遠くに見える街の明かりに向かって、二人はゆっくり漕ぎ出した。

 真帆の黒髪は夜風に美しくなびき、

 ロックスの銀色の髪もまた同じ風に揺れた。


 ひんやりとした夜の空にまたたく星々は、そのまま、二人の少女の瞳に宿ったのである。


(やば、あたしいま)

(引くくらいドキドキしてる)

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