~顔面変革の代償~心も汚い不細工男にゲスな勇者がイケメンになる魔境を売った結果

松本生花店

1話 顔も心も汚い男。その名はスリート

俺はスリート。歳は28歳で、商人ギルドの事務員をやっている。


「おーい、スリート、ここの書類間違ってないか」

「え? うわあ本当だ。ゴメン」

「ハハ、気にするなよ。こんなの皆でフォローすれば、なんとかなるよ。でも、最近こんなの多いから気を付けてくれよ」

「ああ。分かった」


 なんだよ。あの野郎、偉そうに上から言ってきやがって。こんなの大したことじゃねえんだから、そのままにしときゃ良いじゃねえか。

 ギルドの奴らはどいつもこいつも俺を見下してやがる。それもこれも俺の顔のせいだ。鼻の横に目立つホクロがあるのがそんなにおもしれえか。

 人を外見で見下しやがって。

 それに顔が悪いのは、俺をこんな顔に産んだ親のせいだ。

 なのになんで何の罪もない俺がそいつらのせいで肩身の狭い思いをしなきゃいけねんだ。

 くそが。

 とは言っても同じ職場で人間関係を悪くするとめんどくさいので、当たり障りなく、俺はいじめられてやっている。

 だが、それを良いことに最近では、どいつもこいつも調子にのって俺の揚げ足をとってきやがる。

 ちくしょう俺が善人なのを良いことに調子に乗りやがって。

 必死に我慢しながら、仕事をしているとユリアナが俺に話しかけてきた。

 

「ねえ、この前の広場での出しもの面白かったね。もう一度一緒に見にいこ」


 この30歳のババアはユリアナ。同じ職場で働いている俺の彼女だ。顔は普通で、服装は地味な女だ。だが、性格は良いので、特別に彼女にしてやっている。


「ハハ、俺もユリアナと行けて、幸せだったよ。実は市場外で美味い飯屋みつけたんだ。今度はそこにいってみないか?」

「ありがとうスリート。私楽しみにしてるね」


 ユリアナは、俺の心の優しさに惹かれているって言っていた。

 どうやら人の内面を的確に判断する目は持っているようだ。

 顔がこんなじゃなきゃ、優秀な俺にはもっといい女が寄ってくるはずなのだが……。まあ、悪い奴ではないので妥協して婚約した。



 だが数日後にギルドで職員同士のこんな会話を耳にする。


「やっぱ男からすると、彼女が美人だったら嬉しいよなぁ」

「女はやっぱり相手の男のために、自分磨きしないとねぇ~」


 俺は思わずふぅんと鼻で笑った。そうだよな、男ってのは皆そう思ってるんだ。自分の彼女が美人な方がいいに決まってる。

 ユリアナの顔がもっとマシだったら、もっと自慢できるのにな。彼女の平凡な顔つきには正直がっかりしてる。もっと美人でスタイルが良い女と付き合わなければ。

 俺のような優秀な男があんな女で満足していてはダメだ。

だが、顔が、この顔が……。


「畜生、俺は何も悪くないのに、親がこんな顔に産んだせいで俺の人生は滅茶苦茶じゃねえか」




 その日の仕事終わり、顔のせいで地獄のような人生を歩むことになった悲劇を少しでも忘れるために、商店街の酒場で酒を飲んでいた。


「畜生! 俺は善良で素晴らしい人間で仕事もできるのに、この顔のせいで人生が狂っちまった! 畜生! 畜生! おい酒もう一杯持ってこい!」


ウエイターもバーテンのオヤジも俺をゴミでも見るような目で見てやがる。

畜生、そんなに不細工はゴミってか。ふざけやがって



「へへへ。旦那、なんか辛いことがあったんですか? あっしが話聞きますよ」


 遠くのカウンターで飲んでいた中年男が、揉み手をしながらこちらの方にすり寄ってきた。格好を見るに衛兵か傭兵といったところか。

 気色悪いのでシカトして1人で酒を飲み続けることにした。


「おーい姉ちゃん。この旦那の奢りで俺にも一杯くれ」


 はあ、俺の奢りだと! なんで見ず知らずの男に酒奢んなきゃ……。


「へへへ。旦那は人格者なんですよね? だったらきっと俺みてえなゴミ虫にも嫌な顔一つせず快く酒一杯くらい振る舞ってくれますよね?」


 仕方がないのでこの意地汚いオヤジにも1杯酒を恵んでやることにした。

 


「おい、犬の真似をしろ! そうすりゃもう一杯酒を奢ってやる!」

「へ、へい」


 中年男は四つん這いになって周りはじめた。


「ワン!」

「ギャハハハ」

「僕エールが欲しいワン!」

「ギャハハ。いいぞ奢ってやる」


 最初は、気色悪いオヤジだと思っていたが、中々面白い奴じゃねえか。ギルドの奴らよりよっぽど俺の偉大さを分かってやがる。


「ところでオヤジ、まだ名前聞いてなかったな」

「へえ。あっしはヒセキ・コウスケと申します」

「ハハ。お前あの有名なゲス勇者か! 通りでいい歳なのに、こんな情けねえ事平気で、できる訳だ」


 このオヤジが魔族から人類を救った伝説の勇者様か。まあ仲間が強かっただけで、コイツは、それを笠に着て威張ってただけだってのは、誰でも知っている有名な話だけどな。

 挙げ句みっともない事ばっかりやって、今は世界中からバカにされて嫌われてる。


「へへ、滅相もありません」


 こんなどうしようもねえオヤジにも優しい俺は、親切丁寧に色々なことを説教してやった。

 それをコイツは頭を下げながらちゃんと聞いている。ゲス勇者なんて言われているが、ギルドのクソ共よりは、まともな人間なのかも知れないな。

 その事をゲス勇者にも話してやったら、すっげえ喜んでやがった。気を良くした俺は普段感じている悩みを色々話した。


「で、今付き合ってる女、30歳のババアだから別れてえんだよ。でもよう、俺、顔こんなじゃねえか。だからろくな女がよってこねえの。ったく、性格も良くて仕事が良いのに顔だけが悪いから不当な評価受けて、マジで最悪だぜ」

「本当ですか? もし良かったらですけど、俺旦那の役に立ちそうなもん持ってんすよ」


 ゲス勇者はニヤリと笑い、懐から手鏡を出してきた。


「あ? なんだこりゃ?」

「これはですね、イケメンになる鏡です」

「あ?」

「かっこよくなった自分を想像しながら、毎日この鏡を見てくださいよ。そうすりゃ、どんどんカッコよくなっていきますから」

「てめえまたインチキくせえもん」

「本当ですよ! これは昔オレのパーティーにいた魔法使いで、今は賢者って呼ばれてる奴が作った魔道具なんです」

「マジか、これ本当に、あの賢者先生が作ったものなのか?」

「ええ。同じパーティーのよしみって事で俺がもらい受けたんです。アイツとの友情の証にずっと大切に持ってたんですけど、旦那なら、俺が持ってるより良いように使ってくれるんじゃないかって思いまして」

「ハハハ。お前はやっぱり俺と言う人間が分かっているな」

「ただ、ですね。あっしは、その最近生活が厳しくて……」

「ふん、仕方がない乞食野郎だな。いくら欲しいんだ?」

「銀貨5枚でいかがでしょうか?」

このぼろっちい手鏡に銀貨3枚は暴利だ。だが、有名な賢者先生が作ったものならば本当にカッコよくなれるかも知れない。

 そんな淡い期待に胸を躍らせながら財布を確認する。が、銀貨は2枚しか入っていなかった。


「カネが足んねえ。悪いがこの話はなし……」

「なに言ってんすか? 金貨が1枚入ってるじゃねえっすか?」

「な!?」

「カッコよく慣れるんだったら、金貨でも安いって俺は思いますよ」


 ゲス勇者は俺の財布に強引に手を突っ込んで金貨を奪う。

そして気色悪い笑顔を浮かべながら、そそくさと立ち去って行った。

 非常識すぎる行動に、俺はしばらく呆然としてしまったが、だんだん腹が立ってきた。

あの野郎、良い奴だと一瞬思ったが、噂通りのとんでもねえゲス野郎じゃねえか!

こっちはただの商人ギルドの事務員だぞ。金貨なんてそうそう持ってねえのに!

ふざけやがって、ふざけやがって!

家に戻る途中、俺はまだ怒りが収まらなかった。だが、それ以上にあの手鏡のことが気になった。カッコよくなれるって、本当かよ。こんな俺でも?

 家についてから、俺はその鏡を取り出して、自分の顔を見た。鼻の横のホクロが、いつものように目立っている。くそ、何も変わらねえじゃねえか。


「ちくしょう、やっぱりインチキかよ! あのゲス勇者、俺を騙しやがって!」


 だが、どこかでまだ期待している自分がいて、それからも毎日自分を鏡に映し続けた。

 アイツにおちょくられて続けてるようで屈辱的だったが、それでも映すのをやめれないことが本当に情けなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ご拝読いただききありがとうございます。

よろしければこちらのダンジョン配信の長編も連載中ですので見に来てください。

こっちは明るい希望が持てるノリで仕上げています。


https://kakuyomu.jp/works/16817330666773336271


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