episode3.授業中(貸し借りもあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染の春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、授業中の1話に過ぎない。


「ねぇ、ねぇ、コレ、読んで」


「おう」


 静かにしろよ。授業中だぞ。隣では春樹と結菜が紙を交換しあっている。隣なんだから紙でやりとりし合う必要ないだろ。


 因みにコイツらの1番後ろで二人組は席替えしても固定である。理由は離れても紙でやりとりするので受け渡し役がすごい数になるからである。


 迷惑かけ過ぎだろ。俺はたまたま結菜の隣になっただけ。俺の逆隣は神崎かんざきさん。俺の絶賛片想いの人である。


「ねえ、春樹、消しゴム貸して」


「ちょっと待って、名前書く」


 おい、結菜机の上に消しゴムあるぞ。てか、名前書かんでも取らんだろ。


「どうぞ」


「えっ、なんで私の名前書いてあるの?」


「あっ……」


 消しゴムに片想いの人の名前書くやつあるけど!!わざと過ぎるだろ。何が「あっ……」じゃ、白白しすぎる。


「もしかして私のこと好き?テレテレ」


 なんだよテレテレって。あともしかしなくても春樹は結菜が好きだろ。


「じゃあここ、山瀬読んでくれ」


 2人のツッコミに回っていると俺が当てられる。クソ教師が。


「えーっと、どこだ……」


「山瀬くん、ここだよ」


 神崎さんが国語の教科書を開いて指さしてくれている。まじ神崎さん大好き。


「えーっと、わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない」


「山瀬、お前どこ読んでるんだ?」


 ここじゃねーのかよ!!「こころ」ないだろ!こころだけに。


 両サイドの結菜と神崎さんは肩を震わせて笑っている。


「じゃあ春樹、読んでくれ」


 よーし。鉄槌を下してやってくれ。コイツもどこか分かってないだろ。


「I love Yuina the most in this world. I already really like it.」


 今国語だぞバカが。あととりあえず結菜の告白するのやめろ。なんだよ。本当に本当にそれが好きですって。


「Me too!!」


 結菜も立ち上がる。なんの劇だよ。あとミートゥーだと私も結菜が好きですになるからな。


「はぁー、3人は後で職員室来なさい。じゃあ座って」


 俺も?まあ話聞いてなかったんだしそりゃそうか。……そうか?


「クッソ。あのゴミ顧問が」


「本当だよ。お父さんに言ってクビにしてもらおう」


 結菜が言ったら冗談に聞こえないんだよな。あの国語教師はサッカー部顧問で春樹を下呼びする。この説明今更だな。


「はい、コレ」


 どうやら紙が俺まで渡ってきたみたいだ。綺麗に折り畳まれた紙を広げる。


『今日の結菜、昨日より可愛いぞ。日に日に可愛くなってくな』


『春樹だってすっごいカッコいいよ。まるで冬の澄んだ大地に浮かぶ夜空に沈む夕日のようだよ』


 なんだよそれ。


『なんだよそれ』


 だろうな。そりゃツッコまれるわ。大地か夜空か夕日かどれかにしろよ。


『春樹、愛してる』


『俺は結菜が愛してくれてる何倍も結菜を愛してる』


『私の方が春樹のこと愛してるし』


 コイツら授業中に何やってんだ。俺いったい何を見せられているんだ。


『海斗と神崎さんのことどう思う?』


『海斗の叶わぬ片想いだな』


 叶わぬ言うな。何かしらバグることを信じてるから。まじでエラー期待してます。


『海斗には流石に高嶺の花だよね。うける』


 うける言うな。確かに高嶺の花だけど。


『ワンチャンあるんじゃね?』


 適当言うなよ。


『ごめん、適当言った』


 なんで会話成立するんだよ。ここで文字は止まっている。コレを見せたかったのだろうか。


 と、神崎さんが消しゴムを落とす。好感度アップのチャンス!俺は消しゴムを拾う。その消しゴムの裏には、『山瀬くん』と書かれてあった。


 えっ?驚きながら神崎さんの方に視線を向けると、人差し指を口の前に立てながら、ウインクしていた。


 可愛すぎんだろ!!!


 消しゴムを返し、黒板を見るがもうニヤニヤが止まらない。止まらないやめられない。あー、今日は思い残すことはない。


––キーンコーンカーンコーン


 授業終わりのチャイムが鳴り響く。マジで今日はいい1日だった。


「じゃ、3人は職員室来いよー」


 忘れてたああぁぁぁぁぁ!!

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