第6回

 「親孝行、したい時に親は無し」という言葉がある。あれは子どもの視点から出た言葉であって、実際のところ、子どもは生まれた時に一生分の親孝行を済ませている。うちの姪っ子に至ってはおじさん孝行もしているし、祖父母孝行だって完了済みだ。あとは自分のために好きに生きてくれればいいと思う。


 姪が生まれてすぐ、父(姪から見ればお爺ちゃん)に胃がんが見つかった。ステージ4、余命は数ヶ月だった。胃のバイパス手術の後、目に見えてやせ細っていき、たったひと月ほどで自力でベッドから起き上がるのも困難になってしまった。父がどれほど辛い思いをしていたか、いくら息子とはいえ、当人ではない私にはそのすべてを図り知ることはできない。


 ただ、闘病中の父が無条件に笑顔を見せる時間があった。それは姪が遊びに来た時だ。その世界一かわいい孫の顔を見た瞬間に、父は痛みもしんどさも忘れて破顔した。ベッドの隣に寝ころんだ姪がお爺ちゃんの顔を見つめると、姪のために布団の上にかけていた星のカービィのタオルケットをひらひらと手で宙に泳がせて見せる。姪はそれを不思議そうな顔で追いかけて、その後ろからお爺ちゃんの顔がパッと現れると、目を丸くして「あー」と声を出した。父は一層笑顔になった。私は二人のふれあう姿をそっと撮影した。容量いっぱいになった私のスマホには、姪と一緒に笑う父の写真がたくさん残った。


 本来なら痩せた病床の父の姿を写真に残そうとは思わなかっただろうし、父も自分からは望まなかったはずだ。それができたのは孫という最強の「かわいい」のおかげだ。父はかわいい孫がいたから最期まで笑顔でいることができたのだ。 


 父が亡くなってから、私は姪をますますかわいがるようになった。たぶん、どこかでお爺ちゃんの代わりをしてあげたいという気持ちがあるのだろうと思う。それに、かわいい姪のためにと思えば、この先の人生でつらいことがあってもきっと頑張れるだろうと思う。


 「かわいい」には、それだけの力があるのだ。

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