転生悪女は推しのため一肌脱ぐことにした。
まえばる蒔乃
短編版
第1話
縦巻きの金髪。豪華な煌びやかなドレス。令嬢向けの淡いピンクゴールドに塗られた馬車に精霊の加護を受けた白馬。窓に映るのは気の強そうな吊り目の美少女。
私は恋愛小説『血塗られた貴族のロンド〜引き裂かれたポロネーズ〜』の悪女クリス・カリアスト公爵令嬢に転生したらしい。
らしいというか、転生していた。14年間何をぼさっとしていたのだろう。
「メイドのアンナ!」
「はっはい!」
同行させているメイドのアンナが御者の隣席から返事をする。
「今日はイセット女神歴3457年11月27日、ここはイセリアーナ広場の近くですわよね!?」
「はい、今日はこれから離宮で婚約者の第二王子殿下とお茶ですが」
「急用を思い出しましたの! すぐにイセリアーナ広場通り345番地まで向かって!すぐによ! 精霊馬ならダッシュで行けるでしょ!?」
「え、えええ?」
アンナも御者も困惑するばかりで、話に全くついてこれていない。
いや、もう、刻は一刻を争うのだ!
今日は最推しの美少年の人生が崩壊する運命の日!
私がここで記憶を思い出したのは神の思し召し、彼を助けろと神様が私に任せたのだ! やってやるぜですわ、神様!
私は馬車が止まったと同時に馬車を出て、魔術で手綱を構成して馬車の馬(ロビンソンちゃん)に跨る。ロビンソンちゃんはいきなりの無体にヒヒーンと叫んだが、私が撫でると秒で穏やかになった。
「いくわよ! ロビンソン!」
「ヒヒーン!」
「あ、あああ、お嬢様ーッ!!!」
私はそのまま角を曲がり裏路地を埋める木箱を飛び越え反社会組織のリンチを適当に魔術でぶっ飛ばし、マッチうりの少女に適切な児童保護施設のチラシを投げキッスで飛ばし、騎乗して5分でイセリアーナ広場通り345番地の近くまで到達した。
「どけどけどけ、ですわー!!!」
私は手綱を掴みながら、右手に縄を具現化させ、唇に幻覚魔法を詠唱する。
倉庫が立ち並ぶ路地裏、まさに私は金髪の美少年が髪を掴まれ、ずた袋に押し込まれそうになっているのを目撃した。私は叫んだ!
『縄よ蛇となり皆を束縛し、幻覚きのこの快楽を悪しき者らに与えよ!!!』
縄がコブラに変質し、一気に人攫いを縛り上げ、そして彼らは突然倒れた。
幻覚を見てぶつぶつと言いながらヘラヘラ笑っている。成功だ!!
ずた袋の中から美少年を救出する。
後ろの袋も開くと、中から両親と思しきボロボロの男女も出てきた。
美少年は私を見て驚いた顔をしていた。
「お姉さん、一体……?」
言葉より前に、私は彼をギュッと抱きしめる。
「大丈夫よ、もう私がいるからね。人殺しなんてしなくったって、お姉さんがちゃんとしたご飯とお家をあげる、アーサリス」
「なんで俺の名前を知ってるの?」
美少年は11歳、金髪巻毛で、美しい紫の瞳をしている。最高に美少年だ。
そりゃそうだ、アーサリスは原作小説では美貌の殺し屋だった。
私は彼のキャラが好きだった。そもそもそれ以前に、こんなひどい人生の子を救えるのなら、私は救いたい。きっとそのために私は今日ここで前世の記憶を思い出したのだから。
「さ、行きましょう」
私が彼の手を取り走ろうとすると、行手に黒服の男ーーを引き連れた怖そうな女が立ち塞がった。
「あんた何をやってんだい、その子はうちの男娼館で売るんだよ」
「お金なら払いますわ!確か3459000イセリアイェンでしたわよね!」
「な、なんで知っている……もしかして他の貸金屋」
「違いますわ! 私は単なる通りすがりの公爵令嬢!クリス・カリアストですわ!! ほら、これでも持ってお行きなさい!!!」
私はスマホを探ろうとしてハッとする。しまった手ぶらだった。ペェペェ払いできない。記憶が戻ってすぐ、うっかり前世の感覚で飛び出してしまった。
かといってクリスらしく「あとで従者が払いに伺いますはほほほ」みたいな話が通じる相手じゃない。
「ほら、何を持って行くんだい、アーサリスの代わりに。何もよこさないならこの子の両親は貴族の
ーーかくなる上は!!!
私は髪飾りを投げ渡す。次はペンダント、そして指輪、ストッキング。
帯飾り、ドレスを体にジャストフィットにさせるために何本も刺している純金の針。ドレス、インナードレス、そして。
「さあ! ズロースも全部差し上げますわ!!!!」
私は全裸ハイヒールで腕組みし、堂々と宣言した。
「この全身に纏う装束これでもまだ足りないというのなら、王家に対する冒涜となりますわ。なぜなら今日のドレスは第二王子殿下にいただいたドレス。平民の美少年一人とそのご両親を買い取るのに、これで足りないとでもお言い!?」
ーー命はお金じゃねえ!!!! この貴族から目線がッ!!!!!
と、前世の私の価値基準では叫びたくなるが、ここで人権の話をしている場合ではない。
人権より、私の裸より、アーサリスの人生が一番だ。
人攫いの女は呆気に取られていたが、その後あははと笑い始める。
「あはははッ……ふふ、その全裸で帰れるのならね?」
「帰れますわ。私はクリス・カリアストですもの!」
美少年を庇い、私は堂々と言い放った。
「わたくし、どこをどう見られても恥ずかしくない生き方をしておりますので平気ですわ! さあ、私の身包みを持って早くお行きなさい、私の気が変わらぬうちに!!」
彼らは私が身につけていたもの一切合切、ハイヒール以外を全て拾い上げて去っていく。私の後ろで、アーサリスとご両親が号泣して抱き合う。
「よかったですわ……」
私は満たされた気持ちだった。
アーサリスが泣きながら私に微笑む。
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