エピローグ

 中二とは。厨二病とは何か。運命の一年を目の前に終業式後にものに耽る跨線橋の上。手すりに両手を掛けてぼーっと遠くを眺める。あたりに彼女と同じ女子制服を着た生徒や男子生徒は見当たらない。それもそのはず、本当の終業式は一年い組の生徒とその他一部の生徒が突然気絶した影響で途中退席した生徒達が連絡事項や直筆でサインの必要な書類を書くなど雑務がほとんどの終業式居残り授業という意味の分からないタイトルがついた今日の仕事を終えてきた。

 半日、所属する女子ソフトボール部の練習日でもあった。行くかもしれないとメッセージを送ると同学年と先輩の部員達から病み上がりだから今は休んだ方が良いと、言わずもがな理解しているはずの彼女にまで休むようにとほぼ部員達から強制的に休まされた。そのことは新部長や新副部長からも念押しされた。最後には、コーチや学校顧問にもしばらくは部活の参加を控えるようにと言われる始末。

 放課後無職状態となった。空を目にしているが空を見ている訳では無い。中学二年生となる自分と友人。同級生達を見ていた。

 自分で思っていても。自分以上に進級したところで奇行に走る生徒はいないと思う。しかし、されど中二。どんな事においても一年無事で生き抜くことがどれだけ大切かと思われる一瞬の出来事が人生で一度や二度起こるのもおかしくは無い。

 中学生で起こったある一度の出来事が将来的な心の傷や運命を変えるきっかけになる事もあり得る。

 それほど、大人と子供の中間を曖昧に生きる複雑な人間時代。それが中学生であり、特に中学二年生という一年は混沌としている一年なのだ。物語の作者達は自分の生きた中学二年生が半生の中でいかに特殊で異様なものだと感じた人は多くいたはずだ。この事を作り物の話として。あるいは実話として紡ごうと思ってペンやら、パソコンのキーボードで書き続けているのだろう。

 放課後の空気が漂う夕方。跨線橋の上にたたずむ彼女は月に一冊しか本を読まない。本という一冊の文字や絵、写真が印刷された束に対して。あるいは活字に対して何の気持ちを持たない。少なくとも漫画と比べれば愛しているという訳では無い。

 一番身近な本の虫と言えば、中学校入学と同時にクラスメイトになったアテナ・ヴァルツコップ。彼女とは天と地の差がある。

 半年隣同士の席に座っていただけだった。しかし、半年近くにいて彼女の生態というものは少々理解出来た気がする。

 学年全体。学校全体を見てみれば休み時間など何も無い時を見つければすぐに本を開いて続きを読むという生徒は探せば一人くらいはいるはず。ただ、本は一人で読むもの。読書仲間と何か語り合いたいと思っていたとしても、バトルするほどの気持ちも持っていないと言っていた。

 読書仲間がいなくても、い組で十分だと口では言っていた。本人がそう言うのであればと周りは他クラスの生徒とくっつけようとはしていない。

 いつしか中二への進級、厨二病というワードだけでアテナという新しい仲間と過ごしてから一年経って彼女の交流関係にまで話が広がってしまった。

 彼女が持つ心のモヤモヤが解決したわけではない。最終的には、ミツキ・ペーターというスポ根女子は厨二病という正式な精神病の名前として存在の無いものに対して中学二年生という期間の中で彼女なりの回答というものをまとめる事が出来るのが思春期と言われる若者の期間を終えるまでの課題なのか。あるいは壮大に考えて人間の一生を終えるまでの脳内のいわゆる病へ決着。または共存する為の独自の見解に至れるのか。

 自分の持つ思考というものを話した事が無いが、いつも面白い事をしたいと思うのはまた違うのだろう。

 現代の四半世紀以上を生きた社会人までは少なからず特撮ドラマの影響を受けているはず。故に、ドラマの世界と自身の思考。そして目の前に起こっている現実というものの区別が出来ていない事があってもおかしくは無いと思う。

 こんなくだらない事を議題にして一年を生きるというのは、ふとして人生を無駄にする一つなのかもしれない。しかし、ミツキは感じていた。自分の中心にある闇の部分が中学二年生という繊細な時期が突入する直前になって表情の半分。または体の半分を覆い尽くそうとしている。

 これはある意味『右手が痛む』や『この手に宿る悪魔』または『魔王が潜んでいる』というところだろうか。

 はたから見ればこれらの事案のほとんどは見過ごされ、馬鹿にされている要因になっている気がする。中学一年の段階でそのような事は見かけてはいない。

 彼女もそんな場面が口から出かけた事がある。

 ソフトボールをしていると集団心理で優勝しか目指さなくなる。個性を生かしてくれるのが、クリエイティブ部活・MUSE(ミューズ)。個性や思考の一部を表現していく過程で自分の考える世界を口に出しやすくなったというのも自分が厨二病という思春期につきものな症状を考える一因になっているように思える。

 だが、このまま考えるだけでいいのかと言われればこの空想状態がある宗教団体の布教家のようにみかんの空き箱を裏にしてステージと化して自分の信じる世界を堂々と演説してしまうのではないかと恐ろしいシナリオが思い浮かんでしまった。

 そんな人生の汚点ができないようにこの一年自分の中に潜む厨二病(仮名)Aと向き合う事を決めた。

 この一年後。ミツキはまたこの小学校・中学校と高校・大学を繋ぐ連絡橋の上であの時の自分と再会しようと決意した。

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Chuunibyou Philosopher Enigmatic Stairs 忽那 和音 @waonkutsuna

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