Chuunibyou Philosopher Enigmatic Stairs
忽那 和音
1-1
小学校から大学まである付属校同士を繋ぐ連絡橋。
木々も無ければ車道と歩道を区切る明確なブロックも無い。辛うじて車道の緑。歩道のオレンジで色分けされた程度の殺風景な道。手すりに両腕をかけて自分と自分の中に潜む厨二病の原型と向き合っていた。
連絡橋の下を走る車は一台も無い。大学や病院へ配達するトラックと職員達の特別車両しか入る事ができない地下に入る車はほとんど無い。
オレンジ色の明かりが誰も何も無い道を明るく照らしている。底に塵一つも無い。
彼女が見つめる視線の先。国道は右から左へ。左から右へ横切る中から大の車両達。
普段は部活があって、終わったらすぐ家に帰る青春と言われるキラキラしたイメージをもたれる生活は砂と一緒に駆け抜けている。それも今日のところは無い。というか、しばらく無い。寄り道もせず、帰るはずの彼女はいつもと違う。大きな寄り道ではない。連絡橋に立ったままの変な時間の使い方をしていた。
「どうしたの? ミツキちゃん」
なじみの声がする。中学の方を向けば声を掛けて来たのはアテナ。ついてきたのは、エレンだった。
「あ~。ちょっとね」
「らしくないわね」
「いや。ほら、なんか。もう中二だなって」
今はまだ言えなかった。厨二病について考えている事など。
「そうだね。中学二年生だね」
「ほら、いよいよ来るなって感じしない?」
「何を?」
「そっか。エレンだもんな。感じないか」
「なんか失礼しちゃう」
(知りたければ察せ。幼なじみだろう)と悪魔のささやきみたく言いたくなった。今はまだ言わないでおくことにする。
三人は一緒に帰る事にした。
「今日集まった人達は皆、しばらく部活は休みだね」
「そうね。私とアテナちゃんはいいけど、ミツキとか運動部は大会に支障がでるんじゃない? ねぇ、ミツキ」
(倒れた時に見た。あの人はもしかして、私の何かお告げなのか。もし、将来的なお告げをする人だとすれば、これは私にとって好機なのでは? まずは、全教科やら担任からの連絡欄に『ミツキさんは以前と比べて天と泥の差で大きく変わりました。クラスの皆のお手本となるような生活態度を私も見習いたいです』と書かれれば最高だな。部活では、そりゃあベイ・ブルースと言われるような功績は残して置きたい。バッターとピッチャーこの二役は外せない。絶対にミツキルールなるものは作らなくてはならないな。あれ? でも、それは誰かのまねごとになってしまうか。まあ。いいか。私が世の女子ソフトを発展させる先駆者となれるのであれば、涙も血も汗も流そう。特に夢を見たとかはあれだけど、最終的には仮面を被り世の治安を守るヒーローだろうな……。あれっ、これはあまりにも厨二病的な。あれ。さっきまで厨二病について――)
「ミツキ。ミツキ!ミーツーキー!! もう、ミツキってば!!」
「うわっ! なんだよ~。エレン、驚かさないでよ」
「ミツキがすぐに気づかないのがいけないんじゃ無い」
「エレンちゃん。ミツキちゃんにずっと声を掛けてたよ」
「あっ、そう……。なら、ごめん」
「ふんっ。なんか、おかしいわよ。いつにも増して」
「おかしいって。んんっ、いつにも増してっていうのも気になる。いつもまともだよ」
「なら言うけど、いつもまともな人がクラスの中でおっちょこちょい担当なのかしら」
「それは、私が殺風景な教室を明るくさせようとしているからだよ。これも敢えての戦略だね」
「半分当たっていて、半分間違っているように思えるけど」
「その心はぁ~」
「不意打ちに弱い」
「ぎくっ!」
「だと思ったわ」「そうだと思ったよ」
二人して、ミツキが計画的にその場を盛り上げる時といきなり降りかかった天然ボケは前々から分かっているものだと知った。
ミツキが計画的にぼける時は兆候がある。
彼女は何かぼけた発言をする時は順序を間違えないようにとボソボソと口にする。それも無意識に。故に少しは内容を分かって言っていたりもする。
その時は面白ければ笑う。フライングで知ってしまっていても集団心理の効果で一緒に笑ってしまう事が学校生活で多々起こる。
エレンのような幼なじみで関係性の深い人同士の場合は例外だ。
「行きましょ」
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
エレンを筆頭にアテナは一声に答えるように歩き始める。
いつものように面白い事をしたと思ってやった事が何回かに一度は失敗する。ミツキはそのうちの一回。見えないボケの失敗床を踏んでしまった。
遅れまいと二人を追う。
中学へ進学してから夕暮れを過ぎた暗い時間に帰る事が当たり前になった。
小学校時代は授業の一環としてクラブ活動があり、別に入っていた女子ソフトボールのクラブは日曜日の午前限定で練習をする事が多かった。
中学に進学してから、日の落ちた夜の世界を歩くことが当たり前になった。進学する前から日が暮れてから帰る事は頭の中に入っていた。暗闇を歩く事は無かった。学校周辺は特に駅やビジネス街と繋がっている事があり特に明るい。反対側を歩くミツキやアテナ、達の通学路でもある商店街も駅ビルと周りほどでは無い。だが、商店街なりの身近な明るい空気が広がっている。
数年前は耐震性の工事やチェーン店が挙ってリニューアル工事をしていた。それも、中学に入ってから一人で軽食を食べる事ができるようになるためと思えば良い時期にやったと感心する。
一人で外食。一人の時間。きっと優越に感じる時間なのだろう。
「ミツキ、何をニヤけているの?」
「えっ!? 今、ニヤけてたの?」
「ええ。そこのハンバーガー屋さんを見てね」
「もしかして、期間限定のエビハンバーガーとか。桜シェイクでもいつか飲もうと思っていたの?」
「まっまさか。へっ、そっ、そんな事は……」
「ズボシね。まあ。好みは人それぞれだからいいけど。ちょっとした作業するには良いかもしれないけど、ハンバーガーを食べるのなら駅側に行った先のお店が好きだわ」
「私も~。ビーフ百パーセントのパティが美味しいんだよね」
「そうね。あのお店が出来てから、ハンバーガーに対するランクが変わったわ」
「二人して共感して……」
「ミツキ、もしかして行った事無いの?」
「行ってるじゃん。普段は定食派。部活の後にそんなの入れてもお腹が一杯にならないよ。それに家族が多いとあまりそういうのが食べれないの」
「そうなんだ……。なんか寂しいわ」
「ミツキ。今度の誕生日に私達だけで行くのは?」
「そっそれは……。(なっ、なんか、私が寂しい人って感じになってる? いや、頼めばいけなくはないけど……。でも、何か……)」
ミツキは未開拓のハンバーガーへの反応を間違えたのではないかと感じ取られてしまったと後悔する。しかし、これ以上の何をすればこの二人がミツキを行かせようとするハンバーガーを一時的にでも回避ができるのか。
ミツキは脳内をフル回転させて、考えて考えて考え抜く。
ミツキは右指先を額にそっと添える。
「まだ一般人がたどり着けるほどの物に対して入る事の出来ないような霧によって、オールマイティに気軽にお店に入る事ができないんだ」
「へっ!?」
「だから、私は――」
「ちょっと、ミツキ。何を言ってるのよ?」
「私はこの後、陰の足跡を追わなくてはならないから。これにて」
「あっ……。ちょっと! どうしちゃったのかしら」
アテナとエレンに用事があると伝えた。ミツキは小走りする。彼女は夜の空を渡っている。
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