第10話 ダンジョン配信スタート!
いつもより時間が過ぎるのが早く感じる。気がつけばあっという間に放課後になっていた。
事前に宣言していたダンジョン探索を行うため、琴葉はとある森林の中にあるダンジョンへとやってきた。
「うう、緊張してきちゃった」
しかし、前々回のアーカイブの爆発と、前回行った雑談配信が過剰に盛り上がったことで、どうしても緊張と不安が高まってしまう。
「大丈夫デス。姫サマ」
そんな相棒の心配を払拭しようとするマシーンに頷き、彼女は何度かの深呼吸をした。ここまできたら引くわけにはいかない。ダンジョンの入り口に立ち、「よしっ!」と気合を入れた。
「レムちゃん、配信スタートして!」
「開始シマス」
すると、レムスの左目付近に設置されていたカメラが光を発し、前面に立体映像が現れる。昨今では配信機器のテクノロジーが進み、こうした立体映像は不思議なものではなくなっていた。
今回も琴葉は3Dではなく、本来の彼女自身で映っていた。もうバレてしまったし、3D衣装はあまり評判が良くなかったので素でいくことにした。
それと、もうチャット欄の姫さま呼びもそのままにすることにした。恥ずかしいが、どう呼び方の訂正をお願いするか分からなかったのである。
「こ、こんにちはー! ひ、ひ、ヒメノンチャンネルです! き、きき今日ー!?!?」
:こんちゃー
:始まった!
:ずっと待機してたよ!
:やあやあ
:あれ? お姫さま言葉じゃない
:ヤッホー
:姉さん配信から来ました
:これが噂のヒメノンか
:かわいい
:これは期待できそう
:姫さまー
:待ってたぜーーーー
充分に覚悟を決めたはずだったのだが、配信がスタートするなり琴葉は驚愕してしまう。雑談配信を上回るチャットに戸惑いを隠せず、最初の勢いは明らかに空回りしてしまった。
「す、すっごいコメ数!? ど、同接三万!? え、え、えーと。初めまして。この前その、宣伝させていただいたんですけど、ちょっとこれからダンジョン潜りたいと思います。えーと、えーと場所は」
「青海ダンジョンデス」
「あ、ありがと! 青海市にあるダンジョンになります。と、と、とにかく始めますー」
ガチガチのロボットのような動きになりつつ、琴葉はダンジョンへと足を踏み入れる。その様子に視聴者は思い思いにチャットを入れていく。
:めっちゃ緊張してるww
:姫、落ち着こ! 深呼吸深呼吸
:いきなりバズったらこうなるよな
:この配信、ロボットが二体いますね
:レムちゃんよりロボットっぽい姫
:ってか普通に制服だ
:あれ? ダンジョンってこんな手ぶらで潜るっけ
:本当に武器持ってないね
:え? マジで素手?
:武器とか防具忘れてない?
立体的に表示されるチャット欄をチラ見した彼女は、こくこくと頷いた。
「はいっ! 武器が壊れちゃったら勿体無いので、モンスターが強くないうちは素手で潜るようにしてるんです」
:マジか
:そりゃドラゴンも素手だったもんね
:あの映像、やっぱマジなのか
:どうしても信じられないんですが
:この華奢な体のどこにあんなパワーが
:放送事故にならないか心配
:あれ? そういえば青海にダンジョンってなくね?
「あ、実は以前他のダンジョンで、これを見つけたんです」
琴葉はまるで宝物のように、懐から一つの鍵を取り出してカメラに見せた。
:ユニークダンジョンの鍵だ!
:うおおお! めっちゃレアなダンジョンじゃん
:これって確かダンジョンの中で見つける鍵で、かなり珍しいダンジョンに時限ありで入れるってやつ?
:てっきりノーマルダンジョン入ると思ってた
:姫さま、気合入ってますな
:ユニダン配信って誰でも面白いの撮れるんだよな
ダンジョンには常に存在しているノーマルダンジョンと、特定のアイテムを使用することで一時的に挑戦できるユニークダンジョンが存在する。
琴葉はこの配信でさらに勢いをつけるべく、珍しい映像が取れるユニークダンジョンに挑戦することにした。
「姫サマ、ココデス」
「うん! えーと、たしかこうやって……」
ぎこちない手つきで、少女は鍵を何度か擦った後、頭上に掲げてみた。すると、瞬く間に鍵は赤い輝きを発し、目前に巨大な洞窟が姿を現した。
:何度見てもすげー!
:ユニークダンジョンの出現って、やっぱかっこいいわ
:やばい面白そう
:姫、気をつけてね
:危ないと思ったら帰ったほうがいいぞ
:敵の強さとかは変わんないけど、珍しい奴が多いんだっけか
:姫さま頑張って
:無理はしないでよ
:キター
チャット欄は以降の展開に期待している者と、不安を感じずにはいられない者が混在していた。どう見ても琴葉はか弱い女子にしか見えないので、心配してしまう人は多い。
しかし、琴葉はチャット欄よりも、目前のダンジョンに目を輝かせていた。
「やっぱりカッコいー! じゃ、行きまーす」
これからどんなことが起こるのだろう。彼女はこの始まりの瞬間が好きだ。緊張と不安を一時的に忘れ、ワクワクしながら薄暗い世界へと足を踏み入れた。
ダンジョンの入り口からしばらく進むと、迷路のようにいくつも道が分かれている。バズりたての配信者は、キョロキョロしながらとりあえず直感に任せて進んでいた。
「ケケケェエエ!」
そんな彼女を嘲笑うかのように、早速モンスターがお出迎えする。
「ゴブリン五匹ガ現レマシタ」
「うん」
緑の小柄ながらも筋肉質なゴブリン達は、獲物を見つけるや否や遠くから威嚇を始めた。それぞれ武器を持っていて、中には弓矢を持っている者もいる。
しかも、実は奥にもう一体いるようだ。
「珍しい! ゴブリンのメスもいるよ」
「実ニ逞シイ」
まるで五体のゴブリンに守られるように、奥に一体だけ毛色の異なる存在がいた。オスよりも布で多くを隠しているが、筋肉は負けずとも劣らずである。
しかも、ゴブリンのメスはなぜかオスよりずっと大きいのだ。
「おっきいよね。二メートルくらいかな」
「エエ、不思議デス」
:なんか悠長な会話してて草
:ゴブリンのメスって強いんじゃなかったっけ
:ゴリラみたいやん
:っていうか、ヒメノン本当に大丈夫なの?
:いやいや、だってドラゴン倒してるし
実のところ、ドラゴン討伐の動画はみんな半信半疑であった。誰もが緊張の面持ちで配信を見守る中、当の本人は至って呑気である。わりと無警戒に歩みを進めていく。
「あ、ちょっとお腹空いてきたかも」
「ギャギャー! ギャギャギャ!」
またしても気が抜けた言葉を放つ少女に、笑いながらゴブリン達は襲いかかった。あっという間に四方を囲まれ、すぐさまゴブリン達の総攻撃が始まる。
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