第8話 雑談配信!
「よぉーし! レムちゃん、準備はOK?」
「ハイ」
自宅に帰ってから一時間後。いよいよ雑談配信を始めることになった。
今回の配信でレムスが行う仕事はなく、ただ見守る予定だ。とりあえず自室の丸テーブルにPCを置き、琴葉は何度も深呼吸を繰り返した。
「すーはーっ。すーはーっ。よし! 始めるね」
「ゴ武運ヲ」
配信の準備が整い、いよいよ視聴者達とご対面となった。
「あ、こ、こんにちは! えーと、あたしぃい!?」
:こんちは
:きちゃー
:始まったぜ!
:この人がヒメノン!?
:うおおお! マジだ
:やっぱこのチャンネルで合ってた
:ヒメノン、ヤッホー!
:姉さんの配信から来ますた
:やべー本物だわ
:キターー!!
(な、なんか凄い! チャットが津波みたい!)
今までは一応の挨拶をしていただけで、返事などくることもない虚無の世界だったヒメノンチャンネル。それがあっという間にチャットの洪水状態だ。
しかも、同接数が大変な跳ね上がりを見せている。同接一桁が常だったチャンネルにおいて、すでに一万を超える人々が集まっていた。
(きゃああ! い、一万三千行ってるううう!)
「え、えーと。えーと! あ、あたしこの前、この前は大変でしたよね」
:めっちゃ緊張してるやん
:かわいい
:落ち着いて! 深呼吸深呼吸
:姫さまー
:全然配信慣れしてないw
:姫さまぁあああ
:大丈夫?
:姫さま、落ち着いてくだされ
「姫サマ。ドウゾ」
「え? あ、ありがとー」
いつの間にかレムスは紅茶を用意していた。ごくごくと飲み干し、ようやく彼女の心はちょっとだけ落ち着いた。
しかし、側から見れば些細な問題のようなところで、琴葉は新たな悩みを見つける。
(ど、どうしよー。素で姫さまとか呼ばれちゃってる! でも違う呼び方をお願いしたら、ほんとの名前も答えないとダメになっちゃいそうだし)
ダンジョンVtuberの姿ではなく、今はそのままの琴葉で配信をしていた。しかし、視聴者からは姫さまと呼ばれてしまい、どう反応していいのか悩んでいた。
今や配信界はオープンであり、本名で活動している人も少なくない。しかし、琴葉はなんとなく実名で活動するのには抵抗があった。しかし実際の姿を姫さまと呼ばれるのは、それはそれで恥ずかしい。
レムスは最初からなぜか自分をそう呼んでいたし、呼び方を直そうとしても直らないのでそのままにしたが、視聴者についてはどうするべきなのか。琴葉の心は正解が分からず揺れていた。
結局のところ、恥ずかしいがそのままにして話を続けていると、話題は別の方向へと進む。
:家にモンスターいる!?
:あの時のゴーレムだ
:まんまじゃん!
:カラーが全身ピンク
:モンスターって喋るやついるんだ
:っていうかモンスターと生活してて大丈夫なの?
:普通に暮らしてんの草
「あ、そうなんです。レムちゃんはあたしのダンジョン探索の相棒で、友達です。でもって一緒に住んでます。すっごくお利口なんですよ」
:確かに頭良さそうw
:なんか、普通に相棒ですって言われると納得しちゃう不思議
:雑談なのに最初からカオスだな
:っていうか、この前の経緯知りたいわ
:なんかまったりしてて良いね
「えーと、この前のことをお話しする前に、簡単にあたしの自己紹介からしたいと思います。あたしはヒメノンっていう名前で、Vtuberをしつつ探索配信してます。ダンジョンには大体二年前から潜ってて、いつもレムちゃんと一緒にお宝を探してます。それで、この前はたまたま、まどかさんが襲われてる現場に遭遇しちゃったので、ああなったって感じです」
:ほぼソロで潜ってるような感じなのかな
:この細身のどこに、あの化け物を一撃で屠ったパワーがあるのか
:可愛い
:はい先生! 今おいくつですか?
:なんでVtuberでダンジョン探索を始めたの?
:ってかいつも素手なんですか?
:かわいい
(ひゃあああ。なんかすっごい質問だらけになってきた。しかも、ときどき可愛いとか言われるし)
琴葉は徐々に恥ずかしくなってきて、頬がうっすら桃色に染まってくる。しかし、ここでコメントをしなければ放送事故にもなりかねないので、必死に答えていくのだった。
「はい! あたしの場合、レムちゃんと一緒だから純粋にソロってわけじゃないですけど、他の人とパーティを組めたことはないです。今は十五歳です。それとあのモンスター、なんか意外っていうか、思ったより軽かったのでビックリですよ。私じゃなくても勝てたんじゃないかなって」
隣に座っていたレムスがこれに反応した。
「姫サマが異常ナノデス」
「ええー? そうかな」
「ハイ。何度私マデ殺サレカケタカ」
「ちょ、ちょっと! それは大袈裟だよー」
:一番の被害者はゴーレムw
:やばい
:なんだか説得力あるなw
:草
:やっぱり信じられないよなー
:見るからにか弱い感じだけど
「それから、ダンジョンVtuberを始めたきっかけは、Vtuberを友達に教えてもらって興味があったんです。それと好きなダンジョン探索を一緒にやったら楽しいかなって、そう思ったのがきっかけでした。それと探索中は素手が多いんです。武器は得意なものと下手なものが色々あるのと、すぐ壊れちゃうからやりづらくて」
:素手のほうが壊れると思うんだがwww
:すげー発想! ダンジョンとVtuberってなかなか考えつかないわ
:ってかヒメノンはガワじゃなくて素でいいでしょ
:脳筋感ぱない!
:次はいつダンジョンに潜るの?
:仕草かわいい
「次のダンジョン配信なんですけど、ちょっと急ですけど明日行こうかなって思ってます。私、けっこうダンジョン潜るの好きなので、ちょっと間が空くと行きたくてしょうがなくなっちゃうんです」
「姫サマハダンジョンヨリモ、オ宝ガ好キナノデハ?」
「あ、そうかも!」
:うおおおお! 明日やってくれるんだ!
:やべー! いきなり見れるじゃん
:噂の実力の真偽、これでハッキリするな
:ってか、そんなお宝好きなの?
:超楽しみー
:ヒメノンありがと!
:なんかいい子っぽくて安心する
:本当に大丈夫かな
:ちょっと心配なんだが
この回答で、俄然チャット欄は盛り上がってきた。そんな中、一つの質問が琴葉の目に止まった。
「お宝、私すっごく好きです! っていうか、お宝を手にした時の高揚感にハマっちゃって。それと宝箱のデザインとかもすっごく好きですっ」
いつの間にか琴葉は、目をキラキラさせながら自らの宝箱好きを語り出した。こうした物好きが類をみないキャラを確立していくのだが、そんなことには気づかない彼女である。
結局のところその後は、視聴者が驚くほど宝箱のことについて語り続け、あっという間に一時間が経過したところで今回の雑談は終了した。
気づけば同接は四万を超えていたが、途中から無我夢中になっていた琴葉は気がつかなかった。
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