第40話 お前は騎士ではないのだから
馬車で移動している間、ご丁寧にリティシアは目隠しをされていた。今までどこに囚われていたかが分かったら、万が一逃げられたとき自分達に繋がる手がかりを城に与えることになるからだろう。用心深いことだ。
手すりにすがりながら、長々と階段を登らされた。視界を閉ざされた状態で階段を登るのは恐怖でしかなかった。時々足を滑らせそうになり、ベルフとフェシーに支えられるはめになった。
不思議なのは、音や気配から建物に入ったはずなのに、風が吹きつけて来るのが不思議だった。
それからしばらく歩かされ、イスの背もたれに細い鎖でくくりつけられたところでようやく目隠しを外される。リティシアは布で押さえつけられていた目を瞬かせる。
床に模様がある物の、あとは今までいた牢獄と大して変わらない、そっけない部屋だった。壁の左右にある木のドアは、隣の部屋に続く物だろうか。三方は壁に囲まれているものの、前方は胸ほどの柵があり、その向こうに吹き抜けがあった。絶え間なく風が吹き付けてくる吹き抜けに沿って、らせん状の階段がある。どうやらさっき登ってきたのはこいつらしい。向こう側は、同じように空っぽの部屋が見えた。
後から光が差し込んでいるのをみると、窓があるようだ。出来る限り状態をねじって首をめぐらすと、ガラス越しに、夕焼け空が広がっていた。まるで熱っせられたコインのような太陽が、周りの雲を赤く染めている。その下には街並みと畑が穏やかに横たわっている。
空というのはこんなにも美しい物だったのか。かえって影と闇を濃くする牢獄のランプの光から抜け出し、久しぶりに色を見た気分だった。
だが、いつまでも見とれている場合ではない。リティシアは必死で頭を働かせた。
高さからして、ロディンの街にある鏡の塔だろう。それ以外にここまで高い建物はこの辺りにはないはずだ。
まだパーティーは開かれていないようで、音楽も人のざわめきも伝わってこない。
「さて、ちょっとフィダール様に報告をしてくる」
竜使いのマントを身に着けたベルフはそう言って階段を下っていった。
(こいつらも仮装しているのか)
向き直って、フェシーを見る。彼女は、童話に出てくる、雪を司どる女王の姿をしていた。白いドレスはどこか冷たい印象のフェシーに似合っているが、それを言って相手を喜ばす気はなかった。
「パーティーと言っても参加できるわけではないのだな」
「そのうちに出番が来ます」
相変わらずの冷たい声でフェシーが言った。
「この塔は全体が大きな兵器。ケラス・オルニスがそう造り替えた」
野望を語ったフィダールとそっくりの、どこか陶酔した口調と様子でフェシーは語る。
「あなたの血をもってこの兵器は完成する。ロアーディアルだけでなく、他の国々もケラス・オルニスの前にひざまずくのです」
こいつらはおかしい。
のぞきこんでくる青白いフェシーの顔を、リティシアは虚ろにしか見ていなかった。
ラティラス。囚われているというラティラスはどこにいるのだろう。
助けになど来てくれなくてもいい。お前は道化で、王子でも、白馬の騎士でもないのだから。ただ、無事でいるかどうか、それだけが知りたかった。
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