第35話 ソシキ
フィダールは廊下を歩きながら、よくここまでこられたものだと感慨(かんがい)ひたっていた。
フィダールの父は裕福で、周りには布の貿易で稼いだ幸運な豪商と思われていただろう。
ただ、彼には少しおかしい所があった。二人きりになると、「我々は本来ロアーディアル王家に同じくらい貴(とうと)い血筋だ」と口癖のように言っていた。でもフィダールはそれをただの冗談だと思っていた。もし自分達がそんな偉いのならもっと大きい家に住んでいるだろうし、働かなくてもいいはずだから。
だがその冗談を父が信じていると分かったのは、十四歳のとき初めてあるパーティーに出席を許されたときだった。そこには、様々な身分の者がいて、普段では目にするここともないような貧しい者もいた。父は同じ一族だと思われる者を集め、小さな組織を作り、自分達のルーツを調べていたのだった。
それからフィダールもその組織の手伝いをすることになった。ある地に記録ではなく歌で伝わっている伝承、あるいは公に知られていない遺蹟に残された不思議な道具。そういった物を研究するにつれ、父の冗談は本当のことだと確信するようになった。
王家と同じくらい貴い血筋。だというなら自分が玉座に座ってもいいではないか。
早くに死んだ父が革命まで考えていたのかは分からない。だがフィダールは自分の持っている権利を行使しようと思った。
まずは非合法の仕事を受け負うことで、金持ち達を取り込んでいった。そしてその金を神々の武器の発見や開発――いや、どちらかというと修理――にあてていった。
幸い、ロアーディアルは自分達のルーツをたどることなど時間の無駄と思っているようだ。そうそう目立った動きをしなければ過去を調べることは目を付けられることではないし、遺された技術は父の代から研究しているこちらの方が上手に使える。
もちろん、組織が大きくなったらふさわしい人間だけに絞らなければならない。肥大しすぎた組織は内部崩壊を起こす。本当に、自分の信念に完全に賛同してくれる者だけいてくれればいい。
すでにその計画の準備はできている。フィダールは秘かにほくそ笑んだ。
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