第32話 兄弟喧嘩と致死性の毒2
石畳に足音を響かせ、ラティラスは走り回った。暗殺者と会った所から、ルイドバードは場所を移したらしく、すっかり明るくなった通りは、荷を運ぶ者や雇い主のもとへ向かう召し使いらしき人々が行き交っている。
朝食の煮炊きの湯気がいい匂いと一緒に立ち上っているが、ラティラスには「朝だなあ」なんてほのぼのする余裕はなかった。
たぶんルイドバードも人気(ひとけ)のない所に行ったに違いない。
二人連れの女性が向こうからやってきた。一人が連れに興奮気味に話し掛けている。
「いや、あれは絶対身分の高い人よ。だって、顔に気品があったもの。着ている物も良いものだったもの」
「でも怪しいじゃない。血塗れで引っ繰り返ってるなんて。お供が女の人一人だなんて」
「けどさ、うまくいけば玉の輿にのれるかも知れないじゃない」
「バカなこと言ってないの。早くしないとまた女将(おかみ)さんに怒られるわよ」
ぴたっとラティラスの足が止まった。女性のお供というのがちょっと気になるが、ルイドバードの可能性が高い。
「あ、あの、その倒れている人というのはどこに?」
「え、ええ。あ、あっち……」
いきなり必死の形相で見知らぬ男に話し掛けられ、女は驚きと怯えをミックスしたような表情で今来た方向を指差した。
「ありがとうございます! よい一日を!」
ラティラスは教えられたとおりに行くと、人通りのない場所へでた。畑と町の境目らしく、舗装された道は吹き寄せられた土で半ば埋もれている。
建物の影にルイドバードが倒れているのに気づく。
「ルイドバ……」
途中でラティラスの言葉が止まった。
ルイドバードの枕元に、女性が一人しゃがみこんでいる。ルイドバードの首筋に触れ、様子を診ているようだ。
道を教えてくれた娘(コ)達が女のお供、と言ったのはこの女性のことらしい。
ラティラスに気づいて、その女性は振り返った。
その顔を見て、ラティラスはぱっと笑顔になった。
「おや、あなたは……こんな所で会うなんてご縁がありますね」
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