後輩ちゃんは馬鹿酒乱
「ぷはー! いやーごめんなさいね先輩。 奢ってもらっちゃって。 役得役得!」
ジョッキに丸々注がれたビールを喉を鳴らしながら飲み干す東雲玲於奈。
俺たちは今、新入生歓迎会と銘打ってこいつの希望である居酒屋へとやってきていた。
「なーにが先輩だこの野郎。 お前俺と同い年じゃねえかよ。 てか俺はまだ19だからむしろ年上……」
玲於奈とは対照的にソフトドリンクしか飲んでいない俺は、安い焼き鳥を頬張りながら悪態をつく。
大学の一回生といえば基本的に18か19歳。
飲酒が認められている年齢ではない。
ではなぜこいつがさも当然かのように飲酒をしているのか。
「あー! それ言っちゃダメなことです! ようやく念願の大学生になれたんですから!」
それはずばり、こいつが一年の浪人生活の末に合格を勝ち取った浪人生であるからだ。
「ったく。 別に俺は気にしないからため口にできないのか? 同い年のお前に先輩って言われるほうが気持ち悪い」
「えー。 残念ですがそれは遠慮させてもらいますー。 私、浪人生ってばれるの嫌なんで」
「うん……そうか」
俺たちの通っている大学はそこそこ賢いが、大半が現役で入学してくる程度のレベルであるため、どちらかというと浪人生の肩身は狭い。
それゆえに自分が現役生であるように振舞うため、ぼろが出ないように俺にも敬語を使っているのだろう。
それを言われると俺としても無理に咎めようとは思えなくなる。
「それに私としては、こんな可愛い女子と同じサークルに入れたことを喜ぶべきだと思いますよ! ほらほら、もっとお酌したげますから」
「はいはいどうもどうも……ってどさくさに紛れて酒を飲ませようとするんじゃねえよ」
ばれたかと言いたげに不敵な笑みを浮かべると、彼女はビールが並々と注がれたジョッキを一気に飲み干し……盛大にむせた。
「お……お前それ絶対一回で飲み切れる量じゃねぇだろ……」
「ぷはぁ! そ、そんなことないでふよ? こう見えても私お酒強いんです!」
「いやいや嘘だろそれ。 顔真っ赤じゃねぇか」
確かに東雲玲於奈の顔はさっきまでとは比べ物にならないほど赤くなっていた。
むしろそれはアルコールのせいというより明らかに酔いによるものに見えるのだが……本人は頑なに認めようとはしない。
「ほら! もっと注文しますよ! 注文しないで喋ってばっかりだと店員さんに失礼でしょう!」
「え、えぇ……」
なんで俺が怒られているんだろうか。完全にテンションのおかしい東雲玲於奈に気圧されながら、俺は渋々と注文用のタブレットを操作するのだった。
★
明らかに玲於奈は酔っぱらっていた。
「あ、わたゃしのことょはりぇおにゃってよんでっもりゃってだいじょーびゅでぇしゅよ! あきとしぇんぴゃい!」
「はいはい」
急に呼び方の話をしたかと思えば。
「だゃから! しぇんぴゃいのたゃちみゃわりはあみゃいでしゅ!」
『ストシス』の話を始めてみたり。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「え? なんて?」
何を言ってるのか分からなかったり。
「みょう……いっぴゃい」
「おうおう……お前もう飲みすぎだって。 やめとけやめとけ」
呂律の回らない口調でアルコールを注文し続ける東雲玲於奈。
それに待ったをかけようとするが、彼女は聞く耳持たずにタッチパネルを操作してはジョッキを飲み干し、そしてまた新たな酒を注文する。
そんな状態が既に30分近く続いていた。
「なぁ……頼むからもう飲むな? お冷で我慢してくれよ」
「うぅ……わきゃってまふよ……」
そういってちびちびとお冷を飲む玲於奈だったが、しばらくすると再びタッチパネルを操作して注文を始めようとする。
「だぁー! ストップストップ! お前もう飲むな! もう酒禁止!」
「しょ、しょんにゃことないでしゅよ!?」
「呂律回ってないんだよもう……」
そう言って俺は東雲玲於奈が持っていたジョッキを没収する。
しかし取り上げた直後、東雲玲於奈は机に突っ伏しながら嗚咽を漏らし始めた。
「うっ……うぅ……」
「な、泣くことはないだろ!?」
「しょんにゃこといわれても……。 しぇんぱいが私のお酒をとっちゃったんでしゅ……」
そう言ってさらに涙を流す玲於奈。
どうしたものかと考えている間に……タッチパネルに触れようとした玲於奈の動きが止まる。
「……え、寝た?」
酒乱のバカ後輩こと玲於奈は酔っぱらって眠りこける。
「ん……これ俺が連れて帰るわけ!?」
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