第341話 1ー2 流星の少女

 誰かに抱きかかえられている感覚があった。

 揺れが心地よく、俺は再び意識を手放しそうになってしまう。


 おや、ヒカリちゃんかな?

 俺は体には戻らないつもりだったのだが、肉体の自律稼働に失敗したのだろうか。


 星詠みの杖君、俺は外から見てどうなっている?

 ……星詠みの杖君?

 アレ、聞こえてない? もしもーし!


 カメ君!

 ……ふええ、カメさんさびしいよぉ!

 ………………おーい!


「……?」


 何かがおかしい事に気が付いた。

 俺と共にあった同志たちの気配が消えている。

 脳みそに俺の思考だけしか存在しないなんて、おかしい。

 はわわ……。

 

 それによくよく感じ取ってみれば、俺を抱きかかえている美少女粒子には覚えがない。

 

 何がどうなっているのだろうか……。

 うーん、確かどこかから引っ張られる感覚があって……それで……。

 

 ……わっかんねえ!


「丁度、部屋を掃除したばかりで助かったー。こんな可愛い子を、倉庫に放り投げるわけにはいかないからね」


 頭の上から、可愛らしい声が聞こえた。

 俺は薄目でチラリと覗き込む。


 なんと、俺をお姫様抱っこしていたのは亜麻色の髪を持つ美少女であった。

 

「……!?」


 ウィーゥンウィーゥン!(サイレン)

 全知美少女データベースに反応あり!


 これはソシャゲ版の主人公です!

 女verの、ソシャゲ主人公です!


 もしかして、ここは鏡界なのか……!?

  俺が彼女と一緒にいるなんて、俺のデータにないぞ……!?


 俺は記憶喪失コンテンツを享受するはずだったのに!

 折角、星詠みの杖君達にもサプライズで一部肉体の麻痺とか色々とデバフを掛けたのに……!


 それも体験できないのかよぉ!


「これで、良し」


 俺はどうやらベッドの上にそっと置かれたようだった。


 状況を整理しよう。

 どうやら俺は、鏡界にいるらしい。

 そして俺を抱っこしていたのは、ソシャゲ版の女主人公。

 名前は公式だとガーデナーちゃんだったか。


 俺はリリース記念PVを見ただけなので、詳しいデータはない。

 が、それでもわかることがある。


 俺の美少女脳(IQ1億)が導き出した答え、それはソルシエラのイベントが始まる可能性があるという事だ。

 意識を失った状態でガーデナーちゃんに拾われたミステリアス美少女……これは素晴らしいコンテンツである!


 どうしてこうなったかは分からない。

 が、目の前にコンテンツがあるのならば、それをより美しいものに昇華させ、涎ジュルジュルで享受するのがマナーというものだ。


 というわけで、行くぞ二人とも!

 期間限定ソルシエライベント(仮)を開始する!


 ………………返事してよぉ!

 うわーん! 調子狂うよぉ!


「それにしても……すっごく可愛い子だなぁ。どうして空から降って来たんだろう」


 俺、空から降って来たんだ。

 星詠みが空からやってくるなんて、なんだか素敵だね☆彡


「先生はまだ戻ってこないだろうし……カノンちゃんでも召喚して聞いてみようかなぁ」


 なんかやばい事言ってるかも……! 

 あっちに主導権を渡すのはミステリアス美少女的にマズイ!


 とりあえず、目覚めてそれっぽい事言わなきゃ……!







 ベッドに少女を降ろしたガーデナーは、困り果てていた。

 この少女は、今まで出会ってきた探索者とは何かが違う気がしているのだ。


「先生はまだ戻ってこないだろうし……カノンちゃんでも召喚して聞いてみようかなぁ」

 

 最も信頼する探索者の一人を呼び出すことに決めた。

 そして、ホルダーに手を掛けたその時である。


「……んぅ」

「あ、気が付いた!」


 その少女は、ゆっくりと瞼を開ける。

 そして数秒微睡の中を揺蕩ってぼうっとしていたが、唐突に目を見開いて起き上がった。


「ッ……ここは」

「あ、えーと大丈夫?」


 辺りを見渡す少女へと、ガーデナーは恐る恐る声を掛ける。

 少女はガーデナーの顔を見ると、訝しげに首を傾げた。


「貴女、誰かしら」

「私はガーデナー。貴女は空から落ちてきたんだ」

「……そう」

「あれ、驚かないんだね」


 少女は何かを考えこむように、数秒目を伏せる。

 それから、その蒼い瞳でガーデナーを捉えるとこう言った。


「もしかして、ここは星木の学園?」

「え!? 知っているの!?」

「勿論。と、言いたいところだけれど私もアリアンロッドのデータベースで情報を閲覧しただけ。詳しい事は知らないわ。……それで、ラッカには会える?」


 その言葉に、ガーデナーは驚愕した。

 桜庭ラッカの存在を知る者は少ない。

 それ故に、彼女の存在を知る者は全てリスト化されて管理されているはずだった。


 が、目の前の少女の顔はそのリストにない。

 明らかなイレギュラーであった。


「貴女、名前は……?」

「名前……そうね……」


 少女は、ほほ笑んでこう名乗った。


「ソルシエラ。デモンズギア成功体第0号の契約者よ」

「ソルシエラ……聞いたことがない。でも、デモンズギアは覚えがあるよ! ちょっと待っててね、今呼ぶから!」

「呼ぶ……?」


 可愛らしく首を傾げるソルシエラの前で、ガーデナーはホルダーから種子を取り出し床に投げる。

 するとそれは、一人の青年の形をとった。


「――久々に呼び出されたなァ……今度はなんだ? 飯なら作ってやらねェぞ、気分じゃねェ」


 赤い髪に、獰猛さを感じさせる瞳。

 その姿は学園都市なら誰もが知る六波羅であった。

 が、何故か恰好がエプロン姿である。


「六波羅パイセン! こんちゃーっす!」

「チッ……うるせェ方か……外れだな」

「そんなこと言わないでくださいよぉ~! エイナちゃんもやっほー!」

『あ、お久しぶりですぅ! やっほー!』


 六波羅の持っていたがカタカタと揺れる。

 そして光を放つと、少女の姿になった。

 当然のように、六波羅とおそろいのフリルのついたエプロンである。


「それで私たちに何の用ですか?」

「あのね、デモンズギア成功体第0号って知ってる? その契約者だって人が来「ひえええええええ!」……エイナちゃん?」


 ガーデナーが言い終わる前に、エイナは叫び声をあげて六波羅の後ろに隠れてしまった。

 カタカタと震え、その顔は真っ青になっている。


「ど、どうしたの!?」

「リーダー、帰りましょう! そう言えば、騎双お菓子フェスティバルの予選がそろそろ始まる頃ですぅ!」

「もう優勝しただろ」


 震えるエイナの頭をがっしり掴んだ六波羅は、無理やり前に引きずり出す。


「おら、説明しろ」

「え、えっと……0号って言うのは私たちのお姉様でしてぇ……何か私たちが悪さをすると起動して、懲らしめてくるんですぅ。前も、ルトラが調子乗ってボコボコにされててぇ……。あの、ちなみにその契約者ってどこですかね? 私の事は伏せてもらえると……」

「ここにいるよ」


 ガーデナーはさわやかな笑顔と共にベッドの上のソルシエラを指さした。

 エイナとソルシエラの目が合う。


 それから数秒の沈黙が流れた後、エイナは凄い速さでエプロンを脱ぐと綺麗な土下座をした。


「お菓子作りに没頭してすんませんしたぁ! これでも一応デモンズギアの使命は忘れてないつもりですぅ! ただ、ちょっと息抜き? みたいな?」


 突然の土下座に困惑したのか、ソルシエラは説明を求めるようにガーデナーを見ている。

 が、彼女はソルシエラの反応を見て楽しんでいるのか何も答えなかった。


「あの……これはどういう事かしら……。私の知る六波羅やエイナとはどこか違うと言うか……その……」

「ほォ、俺達を知っているのかァ。このSランクパティシエ執行官を」

「知らないわ」


 ソルシエラはきっぱりとそう告げた。

 彼女達のやり取りを見ていたガーデナーは、楽し気に頷く。


 どうやら、ソルシエラという少女はガーデナーの中で『遊んでも大丈夫な人』にカテゴライズされたようであった。












『ミステリアスで物悲しいイベントだと思ったのに……これはギャグイベントかな……? ………………うわーん、やっぱり一人だと寂しいよぉ!』



 

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