第164話 魅せるぜ! 強キャラの余裕!

 腰に力が入らねえよぉ……。

 オイラ、もうまともに戦えねえっぺ。


『大丈夫かい?』


 少しずつ良くなってきてるから、もう少しで立てそう。

 けど、やっぱり俺が直接戦うのは無理そうね。


『すまない。まさかここまで君の耳がクソ雑魚だとは思わなかったんだ』


 それは俺もだよ。

 それに、一度自覚してしまったらさらに弱くなった気がする。


 どうしよう。

 これからは、囁かれただけで腰が砕けてへにゃへにゃになっちゃうよぉ ><


『おみみ強くするために、定期的に耳かきしてあげるね♥』


 逆効果だから止めてね♥


『ゼロ♥ ゼロ♥ ゼロ♥』


 やめろ。

 俺を本格的に堕としてどうするんだ。


 ただでさえ、まだまともに立てないのに。

 一応、腰を重点的に回復しているつもりなんですけどね……。


 と、言う訳で腰が砕けフニャフニャのフニャシエラは今椅子に座ったまま相手を倒すという縛りプレイに挑戦している。


 それも、砲撃などという味気ない方法ではない。

 強者に相応しく、そして今までの相手には出来なかったクールな戦い方だ。


 あ! そう言えばトアちゃんとレイちゃんはどこにいったの?

 右隣にリュウコちゃん、左隣にはトアちゃんとレイちゃんにしたかったんだけど。


 左、知らないおっさんなんだけどなんで? おっさんなんで?


『沢山の人間を同時に転移させたからねぇ。座標が少しズレてしまったのかもしれない。トアとレイは、すこし離れた席に二人揃って座っているよ』


 なら良かった。

 二人だけあそこに置いてきちゃったかと思った。


「……学者」


 隣でリュウコちゃんがぽつりと言葉を漏らす。

 先程まで俺にビビっていたので、その顔は青い。


 可愛いね♥

 何故だかこの子に対しては強気で良い気がしてくるよ。


 原作キャラ様なのに、雑に扱いたい。

 何故だろうね。


『……駄目だ。流石にリュウコが弱すぎる。ソル×リュウだよ、完敗だ。どう転んでもソルシエラが勝つ』


 っしゃぁ!

 リュウコちゃん信じてたぜ!


『あまりにも最弱同士の争い過ぎる』


 こちとら今まで不名誉な称号ばっかり貰ってたからなぁ!

 受けだのなんだの言われているがよぉ……俺は恋愛においても相手を手玉に取る上位者ソルシエラだろうがぁ!


『恋愛上位者がキスされて「><」なんて反応するわけないだろ。いい加減にしろよ、おみみよわよわミステリアスモドキ』


 凄く不愉快な事を言われた気がするが、無視して俺はステージへと目をやる。

 ……あ、お茶菓子とティーカップ持って来れば良かった。


 あのセット、結構高かったのに……。


『どうして、お茶菓子と紅茶だけじゃなくて、椅子やテーブルまで拡張領域に入ってたんだい? 別にあそこは物置じゃないんだが』


 いやぁ、いつでもティータイム始められたらカッコいいかなって……。

 本当はクラムちゃんとか誘って深夜のミステリアスティータイムとかしたかったんだけどね。


『深夜にクラムと会うのはもう誘い受けだろ』


 とんだ暴論。


 あ、そう言えばリュウコちゃんが命乞いで美味しい紅茶とお菓子くれるって言ってたね。

 後でお邪魔しよう。

 新月の夜に。


『いかにもなシチュエーションだねぇ^^』


 自称平凡な美少女リュウコちゃんの元に、たまに訪れるミステリアス美少女。

 接点のない筈の彼女達は、こうして新月の日にだけ深夜の茶会を開くのだ。


 どうだい?

 なんか「始まりそう」じゃない?


『いいねぇ。リュウコの持つ没個性が、良く映える。……というか、これはリュウコのファンがソルシエラと組み合わせたカプ同人なのでは? 成程……リュウコのファンをこちら側に引き込む事が出来そうだねぇ』


 急に★ヨミ先生モードにならないで!


 今は、しっかり自分の役割りをこなしておくれ。


『もうだいぶこなしている気がするんだが……。同時に大量の転移魔法の起動に、精神への干渉、この地下劇場の空間の拡張までやったんだが! 妄想する権利くらい欲しいものだねぇ!』


 でもそれ俺の魔力ありきじゃない。

 役割分担ってやつですよ。


 俺はおみみを気持ちよくされる、君は馬車馬の如く働く。

 ね?

 

『何が「ね?」だ。釣り合ってないねぇ! これが終わったら色々と付き合って貰いたい!』


 大分今回は無茶させたし、いいよ。

 なんでも要求を呑んであげよう。

 

『なんでも!?』


 うん。


『じゃあソルシエラを貪らせてくれ。それはもうぐちゃトロに』


 前言撤回、モラルの範囲で。

 脳みそ腐ってんのか。


 なんで契約者相手に百合乱暴の許可下りると思ってんだ。


『……なら、ソルシエラ完堕ち音声の収録。自分がネコちゃんだと認めるボイスを取らせたまえ』


 えぇ……うーん。


『どうだ、いけるか……?』


 うーん。


『モラルどうだ? 通過出来るか?』


…………収録、ヨシ!


『っしゃぁ! 世間のソルシエラに対する印象を私が書き換えてやる! それこそが、星詠みの使命なのだから!』


 デモンズギアの開発者泣いちゃうってその発言。


「――ソルシエラ、さん。あのこれってなんですか」


 リュウコちゃんが困惑しながらそう聞いてきた。

 ビビっている割にはこうして質問できる辺り、やっぱり神経は図太い。


 命乞いも自分だけじゃなくて全員分だったし。

 しれっと、自分だけ逃げたという状況を作らない様に動いていたし。

 

 やっぱSランクの器やでぇ。


『だが、私の前には雑魚だがね!』


 そう言ってやるなよ、この子だって強いんだぞぉ!


「ふふっ、気になるのかしら」

「え、ええ。まあ。だって、色々と分からない事だらけで」


 ▼ リュウコちゃん は こんらんしている !


 突然ミステリアス美少女に拉致され、よくわかんねえ劇場にぶち込まれてステージ上の学者を見せられているのだ。

 混乱するのも無理はないだろう。


 けど、教えなーい!

 教えたらミステリアス美少女じゃなくなっちゃうから!

 一切、教えなーい!


『ミステリアス美少女の姿か? これが』


「見ていればわかるわ。これは、一人の人間の終わり。言うなれば最後の晴れ舞台よ」

「……それって、殺すって事ですか」

「結果だけを端的に言うのは好きじゃないわね。そこに至るまでの過程も大事だとは思わない?」


 リュウコちゃんの言葉をけむに巻く。

 俺はこういうふわふわした言動が得意である。


 リュウコちゃんは、納得していない様子でそれ以上何もいう事なくステージへと目をやった。

 よしよし、いい子だ。


 ちなみに今回学者を殺す方法だが、それは幻覚を用いた精神ぶっ壊し処刑である。


『まるで悪役みたいな倒し方だぁ』


 ははは! どうだ、私の幻覚は!

 心を蝕み殺してやるぅ!


『あんまり人気の出ない悪役?』


 ……な、なぜ私の幻覚が効かない!?


『もう逆転されてるねぇ。想像の中でくらい勝っておくれよ』


 こういうことする相手って基本は負けるからね。

 しかも味方にはならない。


 今までは、六波羅さんやトウラク君といった原作キャラ様や、美少女の体を乗っ取った奴、姉なる者など敵として残虐に殺すことは出来なかった。


 精々が、プロフェッサーの魂ミンチである。

 けれど今回もこれでは味気ない。


 せっかく遠慮なく殺せる相手と出会えたのだから、強者としての格というものを見せたい。


 そういう意味でこの戦い方はいいね。

 肉体は残したまま廃人にすることでソルシエラの恐ろしさもよくわかるだろう。


 そう、命は奪わない。

 が、その精神はぶっ壊させて貰うけどなァ!


『こういう時の君、楽しそうだよね』


 最高。

 最近、ずっと実は優しい子のソルシエラばっかりだったからさ。

 こういうところで残虐性もアピールしたいのよ。


 お、そうこうしている内に本格的に始まったみたいですよ?


『精神は完全に掌握した。後は彼女の脳処理の限界を超えた恐ろしい体験が幻覚として襲い掛かるだろう』


 こわぁ。

 けど、始まりだからね。


 はい、皆拍手ー!


 俺に精神を干渉された人々は、統率の取れた拍手と貼り付けた笑みを舞台上の学者に送る。

 あ、こういうのって上演前って拍手していいの?

 

 マナーわかんね。


『ミステリアス美少女とは思えないねぇ』


 まあいいや!

 気にしない気にしない。


 今回は座って笑ってるだけだし、あれ見ながら新刊の話でもしよっか。


『そうだねぇ^^』

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