第113話 至福トリップ
やばい! 気持ち良すぎる……ッ!
奥さん見ました? ダブルミステリアス美少女ですって!
『勝手にご近所にされた』
共依存ズブズブで互いの事を歪に愛しながら地獄に堕ちていく最高のカプわよ!
メリーバッドエンドかバッドエンドしか用意されていないタイプのカプわよ!
『はっはっはっは、我ながら素晴らしい出来だったからねぇ。見た? ねえ見た? 髪にキスする所』
天才かと思ったよ。
思わず「おまっ天才か?」って言うところだったわ。
『ふむ、好評で嬉しいよ。しかし同時に反省点もあるねぇ』
ほう、聞こうか。
『ちょっと私のキャラやばすぎない? アレだと素直にイチャイチャ出来なくない? 君の血を飲んだりとか、首筋噛んだりしそうなんだけど』
?
それの何が問題なんだ?
『君は一体どれだけ先にいるんだ』
星詠みの杖君がなんで困っているのかわからない。
ソルシエラは確かに圧倒的攻めではあるのだが、0号との絡みの上で傷つくことには何も問題はない。
むしろ良い!
いいかい、星詠みの杖君。
肉体的に攻めていればそれが優位という話ではないんだ。
破壊的衝動でしか愛を伝えることができないデモンズギアである0号に対して、その歪な愛を抵抗なく受け入れるソルシエラ。
その器の大きさが窺えるってもんよ。
攻めているのは0号の筈なのに、楽しそうなのはソルシエラ。そして、どこか苦しそうなのが0号なんだ。
『でも私が首噛んだら、たぶん頸椎までいくよ?』
加減しろよ。
なんで仕留めようとしてんだ君。出身サバンナ?
『いや、あの体があまりにも至高すぎて力の加減が難しいんだ。人間を突き詰めた先の身体能力というか。私、ネームレス思いっ切り斬っちゃったからねぇ』
本気で殺しに行ってるのかと思ってビビっちゃったよ。
でも、その後の傷口を踏む動作は咄嗟の機転が効いててGood。
ソルシエラはああいうことしないけど、0号は解釈一致だからね。
『新しい何かに目覚めそうだったねぇ^^ ゼロ×ネム……そういうのもあるのか……!』
この杖、カプ厨すぎない?
ことカップリングにおいては俺も時々置いていかれるんだが。
『だが、どれだけカプが誕生してもソルシエラ総受けは不動だぞ』
よっしゃ戦争したるわ。
体が手に入ったから殴り合いじゃボケ。
「――ソルシエラ、ありがとうございました。私一人じゃ、お姉ちゃんを守れなかったっす」
完全にハイになっていた俺へと、ミユメちゃんはそう言って頭を下げた。
そうだった……まだこっちはしっとりシリアスだった……。
『切り換えは大切だねぇ。……シエル、君は問題ないかい? 私達の魔力を最も近くで浴びていたのは君だが』
『大丈夫です。……しかし姉上、あれほど那滝ケイを愛していたのですね。陰ながら応援します故』
『はっはっは、ありがとうねぇ。後で、一万円分のギフトカードを上げようねぇ』
『流石姉上……!』
その一万俺の財布から出るだろ、勝手に払うの止めてくれよ。
勝手に減っていっているであろう残高に思いを馳せながら、俺はミユメちゃんを見て優しく微笑む。
時々優しい笑みを見せるからこそ、ミステリアス美少女は美しいのですね。
「もう、くだらない事で迷わない事ね」
「……はい!」
ミユメちゃんは力強く頷く。
そして、カノンちゃんの元へと向かった。
俺達の戦いから守ってくれていた鰐さんとイルカさんはボロボロになっているが、カノンちゃんは傷一つ無かった。
カノンちゃん……まさか死んでしまうとは……。
確かに君は輝いていたというのに。特に最後の輝きは、本当に美しかった……。
……ねえ、星詠みの杖君。
『無理だね』
だよねぇ。
蘇生したいけど、ヒカリちゃんと違って完全に輝きが失われているもんね……。
これじゃあ、いくら俺でも助けようがない。
『私達はあくまでそこに在るものを別の形に変化させたりしているだけだ。0から1を創る事は出来ないねえ』
俺は屈み、カノンちゃんの髪をそっと撫でる。
彼女は眠っているように小さな呼吸音だけを響かせていた。
もう二度と目覚めないであろう彼女を前に、しかし俺は清々しい気持ちでもある。
それは隣に立つ少女が理由だった。
「……絶対にお姉ちゃんともう一度お話をするっす」
諦めるという言葉は、ミユメちゃんには存在しない。
どれだけの不条理や不可能を前にしても、その眼は強い輝きを放っている。
その姿は、まごうことなく主人公であった。
これがスピンオフ主人公様……!
拝んでおこう星詠みの杖君。
『ありがたや……!』
不屈の精神を手に入れたミユメちゃんに対して俺がこれ以上手を差し伸べる必要はない。
ミユメちゃん、君はこれから人造人間系天才元気娘スピンオフ主人公として生きていくんだ。
『コンテンツの押しつけが凄い』
特に俺はトアちゃんとの絡みを期待しています^^
ああいう純粋な絡みもいいよねぇ。こっちのズブズブとはまた違った趣がある。
「……そろそろ私は行くわ。ここにもう用はないもの」
「はい。本当に助かったっす。ありがとうございました!」
「あら、何を勘違いしているのかしら」
「え?」
俺はキメ角度でフッと微笑む。
「星はただそこで輝いているだけ。助けたつもりはないわ。……全て、貴女自身の力よ」
「……! はい!」
俺はわざと服がはためくように踵を返す。
そして転移魔法陣を起動して――。
「――うぅっ」
部屋の入り口付近から聞こえる呻き声に足を止めた。
声のした方を見れば、俺達のダブルミステリアス美少女砲により崩落した天井が一部に積み上がり、瓦礫の山となっている。
好奇心からひょいと覗けば、そこにはボロッボロのトアちゃんがいた。
ええええええ!
なんでえええええ!
「……貴女、何しているの?」
「ひえっ、そ、ソルシエラ!」
トアちゃんは、俺を見てあわあわとしている。かわいい。
その体はボロボロで、仰向けで瓦礫の上に転がっていた。
「え、トアちゃん!? どうしたっすか!」
「えっと、どうしても不安でミユメちゃんを探していたら、その……ようやくたどり着いた時に銀の光が急にピカって……」
「そう……」
ごめん、それ俺だわ……。
トアちゃんが勇気を振り絞って来てくれたのに、どうやら運悪く砲撃に巻き込まれてしまったらしい。
つまり、俺は知らず知らずのうちにトアちゃんとミユメちゃんのてえてえの機会を潰していたことになる。
断頭台は何処だ!
『だがこれで、ボロボロになりながらも笑い合う美少女の画が完成する。エンドスチルに相応しいじゃないか』
断頭台は片付けろ! 処刑は無しだ!
「トアちゃん……勝手にいなくなってすみませんでした」
ミユメちゃんはそう言って頭を下げる。
それから、顔をほんのりと染めて恥ずかし気に口を開く。
「それで……その、またお友達になってくれないっすか」
トアちゃんは、驚いたように目を見開く、
それから嬉しそうに何度も頷いた。
「うん……うん! 勿論だよ! ミユメちゃん、これからもよろしくね!」
「えへへ……はいっす! あ、肩貸すっすよ」
「ありがとう……うぅ、これじゃあどっちが助けに来たのか分からないよ」
「私は、もう充分助けられたっすよ」
肩を借りたトアちゃんが立ち上がり、ミユメちゃんと顔を見合わせる。
そして、お互いに笑みを浮かべた。
見たまえ、星詠みの杖君。
あれが天然物の百合だ。
五臓と六腑に染みわたるだろう。
『養殖にはない輝き……! 素晴らしい……!』
『抱き合っている二人を諭して早くここから撤退するべきです故。カノンの体を狙って追手が来るかもしれません』
俺達の会話が聞こえていないナナちゃんは、目の前の光景を前にしても無感情でそう言った。
それはそうだけどぉ……!
『後でごりごりの百合ADVをやらせてあげようねぇ^^』
君、俺との意識接続は悪影響がとか言ってたじゃん。
ゲームはいいの?
『少量ならむしろ体に良いだろう。君は原液だから駄目だ』
『姉上、帰りましょう。那滝ケイにもそう提案して欲しいです故』
『ああ、わかった。そろそろ戻ろう。実際、私達は生徒会室で気絶していたことになっている』
確かに俺がこのままいるのは都合が悪いか。
というか、さっき立ち去るみたいな空気出してたのに残ってたら「何コイツ」ってなっちゃう。
ミステリアス美少女は引き際を間違えないわよ!
俺は転移魔法陣を再び展開して背を向ける。
そして、一歩踏み出したところで足を止めた。
最後にミステリアス美少女していこうねぇ^^
「――そうそう、一つ警告をしてあげる」
俺の言葉に、ミユメちゃんとトアちゃんが注目するのが見ずとも分かる。
振り返ることなく、俺は警告という名の原作ネタバレを開始した。
「天使に気をつけなさい。そろそろ、厄災が始まる」
「天使……」
「それってどういう事っすか……? 厄災って一体……!」
俺はふっと微笑んでそのまま転移魔法陣を潜った。
モヤモヤさせてごめんね。
でも大丈夫だよ、全部トウラク君が解決するから。
騎双学園との戦争の時期と原作での天使の初登場が被っている気がするけど平気平気!
じゃあね、二人とも!
生徒会室で会おうぜ!
■
「――行っちゃったね」
「はい」
ソルシエラが消えた場所を見ながら、ミユメは頷いた。
「天使、それに厄災……これから何かがこの学園都市に起こるって事っすか」
思わず身震いする。
真理の魔眼を手に入れた彼女だが、それでも一人の少女である事に代わりはない。
未知の何かに恐怖を擁くのは当然のことであった。
(この魔眼で、どれだけ戦えるっすかね……)
と、その時右手が握られた。
見れば、トアが手を握り笑みを浮かべている。
「今度は一緒に、ね?」
「……そうっすね。私は一人じゃないっすから!」
ミユメは顔を上げた。
もう、彼女が迷うことは無いだろう。
「ロロン、ルルイカ、お姉ちゃんを運んで下さいっす。帰るっすよー!」
底抜けに明るい声でそう言って、ミユメはトアの手を握ったまま歩き出す。
間もなく、夜が明けようとしていた。
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