第73話 解釈違いと復活
ソルシエラのわくわく美少女蘇生講座!
用意するものはこちら。
■膨大な魔力
■常識外れの演算能力
■絶対的な干渉能力
■美少女への愛と尊崇の念
たった四つで美少女を死の運命から救うことが出来ちゃうんだぜ!
「――始めましょうか」
俺はヒカリちゃんを寝かせて、その横でいい感じに両手を組んで祈る体勢をとる。
意味はない。
何故なら、大体は魔法式の仕事だからだ。
『穴があいた風船をイメージしたまえ。今からやるのはその風船に永遠に空気を注入し続けるような作業だ。穴から抜ける空気よりも多くの空気を注入する。そうすることで、疑似的に魂を完全な状態へと戻す』
例えまで使ってくれてありがとうね。
『構わないよ。そして、私達に出来るのはそれまでだ。それ以降は、彼女の魂が君の魔力に頼らずとも生きていけるようにユックリと再生していくだろう』
成程……では、ここでありったけの魔力をこの子に与えるとしよう。
出し惜しみは無しよ無し!
「――ッ」
「凄い……なにこの魔力は……!」
俺の美少女への愛が、ヒカリちゃんと浄化ちゃんとのてえてえを見る為の強い意思が、魔力となって注がれていく。
うおおおおお!
『む、足りないねぇ。少しギアを上げよう』
かちりと何かが脳内で噛み合う感覚。
俺はすぐにそれが何かを理解して、すかさずその言葉を口にした。
「――星光はここに覚醒する」
『っしゃァ! フェーズ2っしゃァオラッ!』
星詠みの杖君との適合率がグングン上がり、感情の魔力変換効率が上昇する。
六波羅さんと戦った時の姿をこんなに早く出すとは思わなかった……。
『正直、初期形態では辛いからねぇ。美少女を生き返らせるなんて、そう簡単にできる事じゃないし』
それは俺も理解しているところだ。
転生した俺が言うのもおかしな話だが、命は一回きりである。
果たして、その運命を覆すのにどれだけの代償を払う必要があるのだろうか。
俺の場合は、それは心の奥底から無限に湧き出てくる愛だった。
ソルシエラの魔力がイカれている事は自覚している。
マジで天剣レベルの魔力量だし、これに並ぶ者は原作でも片手で数えるほどしかいない。
が、それでも足りていなかった。
「……っ」
表向きはクール。
だが、俺はだんだんと魔力が失われていく感覚と共に、届かないという確信を持ち始めていた。
これ、無茶じゃない?
『リンカーネイションシステムを解析した方が良かったかもねぇ』
今更な話だぜ!
くそ、こんな事ならトアちゃんかミロク先輩の手作りお弁当を持って来れば良かった!
あれがあったら絶対に足りたのに。
『普通はそれでも足りないんだよ』
実は結構ヤバイ状態だったりするのではないだろうか。
これで、やっぱり無理でしたは、余りにもダサい。
ミステリアス美少女はそんな事しないもん!
何か、何か無いか!
「……ヒカリ」
浄化ちゃん……めっちゃ期待してる……。
裏切るわけにはいかねえよ。どうしよう。
ほら、あんなに泣きそうな顔でヒカリちゃんの手を握って。
握って……。
これ、メッチャ良いシーンなのでは?
『うおっ、なんだこの魔力量!?』
美少女が、美少女を前に涙を流している。
美しい友情の涙だ。
世界をどれだけ巡っても、これだけ美しい一滴に勝るものはないだろう。
遥か昔、母なる海の始まりであった雨の一粒でさえ、これ程の輝きは内包していない。
その輝きに俺は胸を打たれた。
美少女の涙は俺に力をくれるんだ!
『言っていることが全然わからないが、今までの前例があるからあながち戯言とする訳にもいかないねぇ』
うおおおお! なんか、元気出てきたァ!
ヒカ×クラなのかな?
クラ×ヒカなのかな?
『プロフェッサーの行動を見る限り、今の彼女はヒカリという少女の真似をしているようだねぇ。憧れ、あるいは自分とは違う彼女に対する劣等感だろうか。どうにも本来の彼女は臆病なようだ』
星詠みの杖の演算能力が遺憾なく発揮され、先程のプロフェッサーが見た幻覚から浄化ちゃん――綺羅螺クラムという人間が分析されていく。
プロフェッサーの見たものは幻であったが、それはヒカリという少女の脳を通して行われた解像度の高い妄想である。
故に、関係性を察することは十分に可能だった。
つまり、ヒカ×クラ?
『普段はヒカリに振り回されていたようだねえ。ふむ……となるとクラ×ヒカの方が面白いか』
は?
『あ?』
……いやいや、冗談言っちゃぁいけませんよ。
だって、ヒカリちゃんの明るさに憧れて、それでも素直になれない浄化ちゃんからしか摂取出来ない栄養があるんですよ?
ヒカリちゃんに手を引かれて、恥ずかしながらも本来の笑顔を浮かべる平和なスチルが見えないのか?
『おいおい、だからこそだろう。君はそうやって過去で関係性を見ているようだが、私はその先を見ている。普段の浄化ちゃんを見ただろう。あんな元気な敬語キャラの皮をかぶって。そんな今の彼女とヒカリが再会したらどうなるのか。かつての臆病な彼女からは考えられない程にヒカリを求め、貪るだろうねぇ! その輝きを自分のものにしたい、もう失いたくない、と言わんばかりに! 君が言っていた依存百合ってやつさァ!』
この異端児がァ……!
お前、自分が何を言っているのかわかっているのかァ!
そうやって自分の都合の良いように美少女の解釈を捻じ曲げて、本来の良さを堪能しようとしない。時代が時代なら、お前は晒し首だぞ!
俺が過去なら、お前は都合の良い夢を見ているようだなァ!
『ああ!?』
なんだァ!?
やるかァ!?
『上等だねェ! それじゃあ、この後たっぷりと論議しようじゃないか! 自慢じゃないが、私はシエル以外にはディベートで負けたことが無いんだ!』
負けてんじゃねえか。
演算なんてちゃちなモンで勝てると思うなよ、青二才がァ!
この胸に真っ赤に燃えるハートで戦ってやるよォ!
『楽しみだねぇ。君に美少女を教えることができるとは』
誰が主か教えてやるよ。
――それはそれとして、一緒にヒカリちゃん救おうね♥
『うん♥』
俺と星詠みの杖君の熱い心象風景中での対話により、さらに魔力が増す。
こういう内なる何かとの対話って強化イベントだしね。そりゃ、強くなるさ。
だが、一手まだ足りない……!
あと一手で世界の理を覆すことができるというのに!
『いや、ここまでくれば充分だ』
星詠みの杖は、そう言うと俺の拡張領域から女装セットの一つを召喚する。
それは見覚えのある銀色のペンダントだった。
あ、確かに第二形態なのにペンダントつけてなかったや。
『いや、私が意図して外した。これは一応は保険として用意していたものだからねぇ』
俺はペンダントを受け取り、気が付いた。
なんか光ってない?
これ、こんなに光ってたっけ?
『君が買い物をしたあの店、戦闘でも使えるゴスロリ衣装を売ったりと、戦いの場での実用を兼ねたお洒落がコンセプトらしいじゃないか。コンセプトが徹底した店で売っているペンダントだ。ただのペンダントな訳が無いだろう』
という事はまさか!
『そう。それは魔力を溜めることができるペンダントだ。本来は魔力が枯渇した時の保険として使うものだろうね。実に良い品だ。そして、その中にはあの戦いで得た魔力が入っている』
銀色だった筈のペンダントが、紫と赤い光を放っている。
獰猛でありながら静謐さを併せ持つその二色の輝きを見間違える筈がない。
六波羅さんと俺の、砲撃打ち合いの時の魔力だ。
『その通り。アレだけの魔力砲撃だ。空気中に漂う魔力だけでもこのペンダントに溜めるには十分すぎた。エイナの感情由来の力であれば、魂との親和性も高いだろう』
素晴らしい。
けど、もっと早く出してくれませんかね?
『どうせあのままではこれがあっても足りなかったからねぇ。意味のない事は嫌いさ』
それは確かにそうかも……。
じゃあ、気を取り直してェ!
俺はペンダントをヒカリちゃんの胸にそっと置く。
そして、己の持つ全ての力と愛をヒカリちゃんに注いだ。
蘇れ……! 元気娘はまだ枠が空いているんだ……!
『また美少女を属性で見てる……』
先程まで一緒にカプ論争してた奴の言葉とは思えないドン引きを一身に引き受けて、魔力を与え続けた。
そうしてどれ程の時間がたっただろうか。
長かったようにも、短かったようにも思える時の中で、ようやくそれは訪れる。
「――ぁ、あ」
「っ!? ヒカリ!」
今までピクリともしていなかった新鮮な死体が、息を吹き返し声を発する。
掠れた喉ではまだまともに話すことはできないのだろう。
が、それは間違いなく一つの理を美少女への愛が凌駕した瞬間だった。
ヒカリちゃんの瞼がゆっくりと開かれる。
初めまして、俺は後に美少女になる見習いっす!
美少女になるために頑張るっすよー!
「……あ、れ。ここ、は」
「ヒカリっ、うぅ……よかった……! 私、貴女にずっと謝りたくて」
目覚めたヒカリの胸に縋り、浄化ちゃんが涙を流す。
アカン、めっちゃ泣きそう。
美少女同士のこういうシーンに弱いんだよなぁ。
「もしか、して、クラム? …………はは、わ、たしと、髪の色がお揃いですね」
「そうだよ。そっちの方が似合うって、アンタが言ったんでしょ……!」
二人を見ながら俺は内心で何度も頷く。
これからは、二人の時間だ。
ミステリアス美少女はあまりにも劇物であるため、静かに消えるとしよう。
俺はすっと立ち上がり、背を向ける。
そして、浄化ちゃんへと声を掛けた。ちなみに背を向けて話すのはそっちのほうがカッコいいからである。
「――それじゃあ、私はもう行くわ。生き返ったなら、これ以上リンカーネイションシステムの実験も出来ないもの」
「ありがとう、ソルシエラ!まさか、ヒカリを救ってくれるなんて……」
「ふふっ、何を勘違いしているのかしら」
「え?」
俺は転移魔法を起動しながら、僅かに首を傾けて浄化ちゃんを見る。何故なら、そっちの方がカッコいいから。
「私はただプロフェッサーの玩具で遊んだだけ。その結果、誰が助かろうが私の知った事ではないわ」
「……ふふっ素直じゃないんだね」
「なに笑ってるのよ、頭でもおかしくなったのかしら。……そのペンダント、肌身離さず持っている事ね。まだその子の魂は完全な状態じゃないから」
うーん、これ以上ここにいると、俺までこの百合に組み込まれかねん。
さっさと帰るわよ。
『帰宅わよ』
■
「――また様子を見に来るわ」
そう言って、ソルシエラは魔法陣の中に姿を消した。
その姿は最後まで冷たい女王のようであったが、それが極力人を遠ざけようという彼女の優しさ故であることをクラムは既に知っている。
何故なら、自分と友達を助けてくれたのだから。
「あ、の人は?」
ヒカリの言葉に、クラムは答えようと口を開く。
しかし、まともに答える事は出来なかった。
「……泣いてい、るので、すか?」
「…………うるさい。泣いてない」
目の前の景色も涙で歪み始めていた。
もう二度と言葉を交わす事ができないと思っていた友達との会話は、今まで諦めていた多くの物にゆっくりと色を与えていく。
まず最初は、仲直りだ。
「ヒカリ、ごめんね。私、自分の事ばっかりで……アンタに酷いこと言っちゃった」
今まで吐き出せず何度も飲み込んだ言葉。
クラムという少女の後悔は、ヒカリの笑顔で許されるように消えていった。
「そんなの、気にし、てないで、す。クラムが素直、じゃないの、は知って、ま、すから」
一人は泣き腫らした顔で、一人はボロボロの状態で笑いあう。
クラムはヒカリにネックレスを付けると、労わりながら背負った。
「お、もくないですか?」
「軽いよ。大丈夫」
一歩ずつ、幸せを噛みしめる様にクラムは歩き出す。
長い長い帰路だ。
会えない間に話したかった事、話せなかった事は沢山あった。
話題に困るはずがない。
でも、まず一番最初は。
「ヒカリ、私ね――」
新しくできた、友達の話をしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます