第24話 美少女だって想定外の事態はある
途中で変な輩と配信者に絡まれたが、結果としては楽しかった。
まさか、あそこまで俺の言葉を信じてくれるとは浄化ちゃんはチョロい奴だぜ……。
「あ、見えました」
トアちゃんはそう言って、空を指さす。
雨が振り続ける荒廃した大地の上を泳ぐ様に飛び続ける一体の蛇がそこにはいた。
時代が時代なら神様として祀られていそうだ。
「アレが、今回のダンジョンの主」
「そ、そうみたいですね」
俺達は、今推定Dランクのダンジョンを探索していた。
探索と言っても、一面が荒廃した大地なので、少しの距離を歩いただけにすぎない。
せっかく決闘を経て探索の権利を勝ち取ったのだから、攻略はしたい所だが、さてさて。
「……飛んでるから、俺の剣は当たらないですね」
「で、ですよね。うーん、困りました……」
俺は、一応短刀を蛇に向けて放り投げる。
一般人が投げるよりはマシな速度で飛んだ短刀は、しかし結局蛇に届く前に落下した。
落下地点で短刀を拾い上げて、上を見あげる。
そもそも短刀を投げられたことにも気が付いていないのか、蛇は気持ちよさそうに泳いでいた。
なんだこいつ。
「……あの、よ、良ければ私が撃ちましょうか?」
「ああ、お願いできます?」
「は、はいっ!」
トアちゃんは何度もうなずく。
遠距離攻撃が可能なトアちゃんだが、こっちからお願いすると怖がっちゃいそうで出来なかったんだよね。自分から、言ってくれて助かるわー。
「わ、私は、さっきの決闘も、あの人たちに絡まれた時だって助けられてばかりなので、ここでお役に立たないと……!」
決闘で三人を消し炭に変えたの君だけどね。
充分に役に立っていると思う。というか、俺の方が役に立っていない気がする。
結局、俺は男装(女装)で遊んでただけだし……。
「そ、それじゃ撃ちますので、離れてください」
「あ、はーい」
俺は少し離れた場所で、短刀を一応構えたままトアちゃんを見る。
辺りには蛇以外の魔物もいない。
本当に、攻略難易度が低いダンジョンだ。そしてこういうダンジョンは、あまり売値が良くない。
雨が振り続けているのも陰鬱で嫌になる。
トアちゃんは、重砲を空に向けて構えると、息を大きく吐いた。
「――第一術式、解放。定格出力『アルテミス』への移行を開始」
雨の音に混じって辺りに武装の駆動音が響き渡る。
重砲の至る所から、蒸気が吹きあがり、熱により雨粒を蒸発。
トアちゃんの周囲が、霧のように白くなっていく。
「第二術式、連結。第三から第五までを限定解除。収束開始――」
武装がその唸りを激しくする。
同時に、至る所に展開される魔法陣。
それは、収束砲撃を撃つ際に必要になる無数の演算システムであり、使用者にかかる負担を肩代わりするものだ。
ふむ、こうしてみると俺のソルシエラとは違うな。
……魔法陣とか、出したほうがカッコいいか。
『■■■■』
あ、出せるの?
じゃあ、オプションで魔法陣を追加しようかなー。
魔力を使った技には、カッコよくて派手な魔法陣を無駄に展開する感じで。
『■■■■■■■■■■■■■』
へー、魔法陣のデザイン自分で決められるんだ。
どうしよっかなー。
……もしかして俺に売られまいとしてプレゼンしてる?
『……』
待てコラ、逃げるな。
……まあいい。
魔法陣はどうしよっかなー。
色は、紫かなぁ。いや、深い蒼も捨てがたいなぁ。
「発射」
「うおっ!?」
俺の思考を遮るように、黄金の光が空へと立ち昇る。
雨を蒸発させながら突き進む光は、そのまま蛇の身体の中心を捉えた。
銃弾を超える高速の魔力砲撃を空を飛ぶ程度の蛇に避けられるはずがなく、あっけなく消し炭になる。
光は、勢いが衰えることを知らずに、そのまま雨雲をぶち破り無理矢理辺りを快晴にした。
威力が、おかしい。
「ま、魔石とか残るように威力を、お、抑えてみたけど……どうでしょうか」
雨に混じって、確かに魔石がいくつか落下してきていた。
「……え、これで?」
「あ、あう……だめ、でしたか」
「いやいやいや、駄目じゃないです。完璧です。ありがとうございます!」
今にも泣き出しそうなトアちゃんに俺は必死に頭を下げる。
これで、威力を抑えているの?
確かに原作だと、色々あって月に出現したダンジョンを入り口ごと収束砲撃でぶっ壊す回があるけど。
改めて、収束砲撃ってヤバいなぁ。
じゃあ、俺の撃ってるソルシエラってなんなんだよ。
威力が強いから、俺も収束砲撃だと思ってたんだけど違う可能性が出てきたな。
「……ケイ君、どうかしましたか?」
「いえ、ありがとうございます。それじゃ、魔石とコアを回収しましょうか」
俺は率先して回収に向かう。
今回の攻略は何もしていない。
意味なし魔法陣の事を考えていただけなので、ここくらいは働かせてほしい。
「てっ、手伝います」
いい子だなぁ。
俺はトアちゃんと一緒にせっせと魔石を集める。
この後は魔石を売って、ダンジョンのコアはミロク先輩に預けて任務完了だ。
「今日も、お肉買って帰れそうですね」
「二日連続で、お肉……!」
キラキラとした目で、トアちゃんが頷く。
平和だぁ。
そんなトアちゃんを見てほっこりしていたその時だった。
俺とトアちゃんのダイブギアが同時に鳴り響いた。
それは、救援を知らせる通知音。
救援要求生徒が近くにいる場合にのみ鳴る緊急度の高いものである。
「トアさん、もう少しだけお仕事できますか」
「はい。が、頑張ります!」
トアちゃんはそう言って地面に置いていた重砲を持ち上げる。
コアは回収、魔石も全部拾ったので後は救援に向かうだけなのだが。
「……ん? 座標がここになってる」
マップを見て、俺は首を傾げる。
どうやら俺達のいる辺りで、救援を求める人がいるらしい。
が、荒野を見渡してもそんな生徒らしい影はないし……あれ、この校章って御景学園だな。
というか、生徒の名前――。
「双葉ミハヤ……!?」
げぇ!? 原作メインヒロイン様ぁ!?
そうなると話が変わってくる。
変に原作に巻き込まれると危ないので、ここは帰らせてもらおう。
そうしよう。
「トアさん、ここは他の探索者に――」
その時だった。
周囲の景色が、まるでかき混ぜるように歪む。
荒野も、雨雲も全てが無かったかのように世界が書き換えられていく。
「こっ、これってなんですかぁ!」
「他のダンジョンの浸食です。強力なダンジョンが、他のダンジョンを飲み込む事が稀にあるんですよ」
ダンジョンの入り口とは別に、ダンジョン同士の距離感は実にちぐはぐはものだ。
隣同士に出現しても、決して交わることがない物もあれば、遠く離れていても混ざり合うものある。
救援の信号が俺達のいる場所と重なっていたのは恐らくはこのダンジョンと原作ヒロイン様のいるダンジョンがかなり近かったのだろう。
そのためダンジョンを攻略しコアの状態にした結果、このダンジョンの抵抗力がなくなり、浸食を許したのだ。
「これは、洞窟ですか?」
「ですね。結晶が輝いているので、明かりには困らなそうですが」
あっという間に、俺達は荒野から洞窟へと移動していた。
ってこれ、原作でもあったダンジョンだわ。
確か、ルトラの使い方がまだ手探り状態で無茶したトウラク君が敗北する回だったか。
あの時は、デモンズギア持ちの先輩である六波羅さんが気まぐれで助けてくれたんだよね。
それにしても、描写されていなかったけど救難信号出してたんだ。へー。
ま、六波羅さんが助けに来てくれるだろうし大丈夫か。
……六波羅さん、原作とは違う動き方してる可能性ない?
デモンズギアも二つあるし……お仕事の優先順位とか変わっている可能性があるくない?。
これ、ヤバくない?
「……行きましょう、トアさん」
「あ、はい」
一応。
一応ね、確認をしよう。
たぶん大丈夫だけどね。
六波羅さんいるけどね(願望)
そんな事を考えながら、背中に汗びっしょりで俺達は洞窟の奥へと足を踏みいれた。
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