かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない
不破 ふわり
一章 星詠みの目覚め
第1話 転生したら普通は美少女になるんじゃないんですか?
美少女化は、人類共通の夢である。
遥か昔、バベルの塔が存在した時代から共通言語で語られてきたことだ。
――可愛い女の子だけの世界っていいよね。
美少女になれるなら
だからこそ、俺は死の間際に願った。
赤信号を無視した暴走トラックが俺の体をミンチにする一秒にも満たない僅かな時間。
「お願いします神様次は美少女に美少女に美少女に美少女――」
輪廻転生に大金を積めば美少女になれるプランを用意しろ!!!
「そう思っていたのに……」
俺はこの世界に生まれて何度目になるかわからないため息をついた。
結論から言おう。
俺は美少女になれなかった。
悪い話と悪い話がある、どっちから聞きたい?
OK。ではまず悪い話から。
俺は男に生まれた。いや、目覚めたら男だったというべきか。
次に悪い話だが――。
「この俺が踏み台だとォ!?」
俺は序盤のかませ役♂に憑依したみたいだ。
しかも、既に踏まれ終わった後に。
■
俺は憑依転生した。
憑依先は
名前からすると終身名誉なろう系主人公みたいだが違う。
こいつは、SNS広告で結果がわかるタイプの序盤のかませ役だ。
「この顔、俺は見覚えがあるぞ」
俺が読んでいた漫画に現代ダンジョンを題材にした作品があった。
作品の名前は『鏡界のルトラ』。
題材はネット小説にありきたりなものだが、漫画家の腕がよく毎週の更新を楽しみにしていたのである。小説版スピンオフも、数巻購入するくらいにはハマっていた。
大まかな内容はこうだ。
とある名家から追放された主人公が、現代ダンジョンで武器になれる特殊な女の子と契約し成り上がる軽快爽快な冒険譚。
そして、俺はその切っ掛けを作るお金持ちの家のかませ役♂。
まともに戦えない主人公をダンジョンにぶち込んで殺そうとしたのだが、そのぶち込んだ先に女の子が封印してあって主人公が契約し見事にダンジョン攻略。
ケイはダンジョンから出てきた主人公に決闘を挑むが無様に敗北し、今までの嫌がらせも公表されて断罪。
かませ君のお家からの支援も止まって全部を失うのだ。
「口座は……千三百円」
俺は通帳を投げ捨てる。
憑依転生したのは三日前だ。
トラックの衝撃の次には、俺はこの体で立ち尽くしていた。
彼の自室であろう場所は、至る所が乱れ荒れている。恐らくは主人公に負けて暴れたのだろう。
俺はそれを三日かけて整頓しつつ、常識をすり合わせて現在に至るわけだが。
「もう、
こういうのって、普通は赤ん坊の頃からのスタートなんすよ……。全部終わった後によーいスタートって言われてもどうしようもないんですよ……。
詰みセーブ渡されてどうしろってんだ!
そして何よりも。
「どうして、女の子じゃないんだアァァァァァァァァ!」
俺は激怒している。
かませ役は受け入れよう。
過酷な現状もまあ、そこそこ許容しよう。
だが、どうしてこんなに素敵な世界で男にならなければならないのだ!
「女の子になりたかった……! 謎部活に入ってきららジャンプしたかった……!」
ただそれだけを願った人生でした。
「クソクソクソォ! この俺がなんでこんな目にィ!」
言っている姿がかませ役なので、こういうセリフはよく似合う。
嬉しいね。嬉しくねえよ。
「うぅ……。原作主人公はいいよなぁ。女になれなくてもハーレムで楽しそうだもんな……。でも彼が頑張ってるって知ってるし、嫉めないよ……」
原作主人公である
「
俺はふと原作を思い出す。
秘密裏に作られた生物兵器型のダンジョンとの戦い。
Sランクダンジョンの攻略権利を賭けた学校対抗戦。天使と呼ばれる生物との戦争。
学園都市そのものを模倣したダンジョンとの全面戦争など。
読者としては中々に楽しめるイベントばかりだ。
まあ、トウラク君は毎回死にかけるんだけどね。怪我してないほうが珍しいってファンからは言われているから。
「ハーレムとしてのラッキーイベントもあるし、なんならトウラク君自身も女になった事だって…………あ」
脳に衝撃が走る。
まるで巨大な雷が落ちたかのような衝撃が、駆け巡った。
「そ、そうだ。まだチャンスはある……!」
気が付いてしまった。
今から一年後に訪れる
「TSが発動する特殊なダンジョンが登場するはずだ。今から一年後、この世界に!」
原作ではサービス的なギャグイベントで流されたダンジョン。
しかし、俺にとっては違う!
「これは……これなら行けるかもしれない」
成り上がりも、汚名返上もいらない。
ただ一つ、美少女になるという巨大な夢。
これになら、手が届くかもしれない。
「始めるか……TSを目指す現代ダンジョン学園生活を!」
いつの間にか俺は拳を握りしめていた。
焦がれた夢が一年後に迫っている。
ならば、その夢の為に
「そうと決まればまずは転校しよう!」
俺はすぐに方針を打ち出した。
作品の舞台は、太平洋に浮かぶ巨大な人工島、学園都市ヒノツチだ。
千を優に超える学園が集合するこの都市はダンジョンを攻略する探索者の為の超巨大な教育施設でもある。
その特徴は学区の自治の殆どが生徒によって行われている事。
都市外の企業と連携などして、独自の運営を行っているのである。
そして、俺こと那滝ケイという男がいるのは
学園都市ヒノツチにおいて四大校と呼ばれるマンモス校の一つであり、生徒数は五十万人を超えるちょっとした都市規模の学園だ。
それなりに探索者としての技量や知識が求められるこの学園に、ケイはお金の力で入った。
一応は、探索者の名家出身という事で才能がそこそこあるが、特に努力する気もなかったようで作中での強さは下から数えたほうが早い。
「コイツは家からの援助で学園に通っていたから、学費免除の特待生とかではないんだよなぁ」
独り暮らしでクソデカマンションに住んでいるだけでも金が掛かるのに、さらに金に物を言わせていたのでもう個人ではどうしようもない。
原作では金を払えずに学園も退学になって、そういった者たちの不良グループに属することになる。ちなみにその後トウラク君に復讐しようとして返り討ちにあって死ぬ。
が、俺がいるからには同じ道は
「少しでも学費が安い所、安い所……」
俺はスマホで学園一覧を見る。
まずは転校だ。
この学園都市内では、結構頻繁に転校が行われている。
学校というよりは、もはやサークルや部活といった方が近いだろうか。
様々な校風や、自治が行われているこの都市において安さだけを追及するのはそう難しい事ではない。
「あった! 最安値で寮が無料でついて学費諸々ゼロ円! ……ゼロ円!?!?!?!?」
どうなってんだよその学校。
「う、嘘じゃないよな。え? 後で高いツボでも買わせるシステム????」
学園の詳細を見ていく。
どうやら生徒数が激減し、もはやヤケクソであるらしい。
が、後一年持てば、TSイベントに介入できればそれで良い。
ダンジョンを攻略するには、どこかの学校の生徒である必要がある。
生徒という肩書きを得る為なら、良し悪しは問わない。
「フェクトム総合学園……知らねえ」
聞いたことがない。
原作では登場しない、知らない学校だ。
が、それでも構わない。
「行くか、フェクトム!」
TSの為なら、俺はなんだってする。
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