アンチ昔話シリーズ

掌編「川上から…」≪MOMO太郎≫


 おじいさんは山へ柴刈りに。

 おばあさんは川へ洗濯へいきました――


 洗濯物を洗いながら、おばあさんは川上へ何度も何度も視線を向けます……しかし。


 待てど暮らせど、川上から大きな大きな桃が流れてくることはありませんでした。


「おじいさん!」

「おや、どうしたんだいばあさん。そんなに慌てて……なにか問題でも起きたのかい?」


「はい……川へいったのですけど……――いつまで経っても大きな桃が流れてこないんです!!」


「……うむ? 桃が流れてこない……? そりゃ流れてこんだろう……桃は川を流れんよ」


「いや、流れてくるんです――そのはずなんです! でないと話が進まないではないですかっ!」


 流れてきてくれないと、山へ柴刈りへいく、川へ洗濯へいく――このループからは、抜け出せない。

 おじいさんは首を傾げ、しかし責めることなくおばあさんをそっと抱き寄せた。


「大丈夫じゃ、きっと明日は流れてきてくれる」

「……本当ですか?」


「ああ……きっと、な――」



 しかし桃は流れてこない。


 既に桃は、川上の方で複数の猿によって回収されていたのだから。




 …了

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