掌編「犬語り」
「わんっ! わんっわふっわぉん!!」
「吠えちゃダメよ。近所迷惑でしょ? あなたのすぐ傍で叫び続ける人間がいたらどう思うの? うるさいって思うでしょう? 迷惑に感じるでしょう?
聞いた人――聞いた犬が不快になるかもしれないの。必要に迫られているわけじゃないなら、吠えるべきじゃないの。分かった? 分からないならおやつあげないからね」
「わふ――わぉんわん!!」
「こら。だから吠えちゃダメだってば。しー。……どうして吠えちゃダメなのか、もっと一から説明しようか? 長くなるよ? それをずっと聞いてなきゃいけないんだよ? いいの? あっ、逃がさないからね、ちゃんと聞きなさいよー!」
抱きしめられ、じたばたともがく飼い犬に向かって、ご主人がこんこんと説明していた。
お説教ではないけれど……そうだったとしても飼い犬はどこ吹く風だった。
視線は明後日の方向に向いている。
「――――だからね、玄関前を誰かが通っただけで吠えるのは、意味がないから、」
「ねえ、ずっと犬に言い聞かせてるけど、喋り損じゃない?」
…了
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