夜食
敦は目を覚ました。
「……お腹すいた……」
部屋は薄暗い。枕元の時計を見ればまだ夜中の三時。隣では太宰が眠っているので、そっと寝床を抜け出した。
――何か食べるものあったかな。
台所に行き冷蔵庫を漁る。
孤児院時代には一度だけした、夜食。ある時、空腹に耐えられなくて食料庫に忍び込んだことがある。味気ない乾パンを食べたがそれはとても美味しくて。でも結局、後に受けた罰でもう二度とはするまいと思ったのだ。
冷蔵庫から冷凍うどんと卵、葱を見つけたので、これでうどんを作ろうと思って腕まくりする。
まず鍋に水を入れてお湯を沸かす。その間に葱を刻むことにした。
「あーつーしくーん♡」
背後から声をかけられて敦はびくっと肩を震わせる。葱を刻む手元が狂わなくてよかった。振り返れば太宰が立っている。夜着を適当にひっかけただけのその姿は目に毒だ。
「私を置いて一人で夜食なんてずるいなあ」
「すみません。よく眠ってるように見えたので……」
言い訳をすると、太宰はどこか愉しげに笑って「私も食べたい」と敦にすり寄ってきた。
敦は笑顔で「わかりました」と答え、冷蔵庫から冷凍うどんをもう一人分取り出す。
「太宰さんは丼と箸を用意してくれます?」
「いいよー」
食器棚を開けている太宰を横目で見ながら、敦は沸騰した鍋に二人分のうどんの麺とスープの粉末を入れた。出汁のいい香りが台所に漂ってくる。ぐう、と敦の腹が鳴る。小さく笑う太宰の声。
――嗚呼、なんて幸せなんだろう。
太宰から受け取った丼に、茹でたうどんとスープを入れ、割った卵と刻み葱を乗せる。食卓までその丼を持っていくと、太宰はにこにこしながら待っていた。
「いただきます」
敦は箸を手に取るとうどんを吹き冷まして一口すすった。香る出汁にもちもちの麺がたまらなく空腹にしみる。敦が黙々とうどんを食べていると、太宰がまだうどんに手をつけていないのに気づく。
「食べないんですか?」
「まだ熱いから。あと敦君の食べてる姿がすごく美味しそうで」
そう云われてしまって敦はうどんを喉に詰まらせかける。そして、こう云い返してやるのだった。
「美味しそうなのは、太宰さんの方です」
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