冬きたる

 朝、敦は寒さで目を覚ます。

「さっむ……!」

 思わず鳥肌の立つ腕をさすりながら体を起こした。

 カーテンの隙間から冷えた朝日が部屋に射し込んでいる。いつの間にか、もう冬になっているのだ。

 それにしても、なんでこんなに寒いのかと敦は思った。だが、気づけば、毛布や掛け布団は隣で寝ている太宰に全部奪い取られてしまっている。

 全く仕方のない人だなあ、なんて思いながら、こちらに背を向けている太宰の肩にそっと手をかける。

「うーん……敦君、そこはだめぇ……」

 触れた瞬間、妙に艶っぽい声の寝言。思わず敦は昨夜のことを思い出してしまって、手を離す。ごくりとつばを飲む音が聞こえそうな気すらして――。

「って、太宰さん! 起きてるでしょ!?」

「……ちぇっ、バレたか」

 布団にくるまったままの太宰が寝返りをうつ。ついでに「おはよ、敦君」なんて茶目っ気たっぷりに笑いかけてくるので、敦もおはようを返す。

 敦は盛大なため息をついた。

「僕、寒いんで熱いシャワーでも浴びてきます」

 起き上がろうとする敦の手を、太宰の手が掴む。布団に入っているというのに、どこかひやりとしたその体温が、敦は好きだった。

「……行かないで」

 さっきまでのふざけた態度はどこへやら。眉根を寄せた寂しそうな顔でそう引き止められて、その手を振りほどく術を敦は知らない。知りたくもなかった。

 太宰は黙って自分の布団の中へ敦を引き入れる。そうして二人、お互い背に腕を回して布団の中で抱き合うと、世界には自分たちふたりしか存在していないような気がした。太宰が敦の太腿に脚を絡めてくる。

 そうしているうちに二人の体温が溶け合って、まるで幼子の手のひらで形をなくした新雪の温度になっていく。

「太宰さんって、本当に僕を堕落させるのが上手いですね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 敦は返事の代わりに太宰の額にくちづけた。くすくすと笑う、太宰の声だけが小さく部屋に響く。そんな、しんとした寒い朝だった。

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