敦太800字まとめ

高間晴

モーニングコーヒー

「敦君の淹れた珈琲が飲みたい」

 朝、目覚めて開口一番に太宰がそう云う。先に服を身につけていた敦は、良いですよ、と云いおいて台所で湯を沸かし始めた。

 しばらくしてから二人分のマグカップを持った敦が戻ってきて、ひとつを太宰に渡す。

「熱いから気をつけてくださいね」

 太宰は、琥珀色の水面を何度か静かに吹いて冷ましていたが、やがて一口すすった。ほう、と安堵にも似たため息が漏れる。

「美味しい」

「インスタントだから誰が淹れても同じ味だと思いますけど」

 それに自分は珈琲を淹れるのがそんなに上手くない、と敦はこぼす。布団に入ったままの太宰に寄り添うようにして座ると、敦も珈琲を一口飲んだ。

「……やっぱり。ついつい粉をケチって薄めになっちゃうんです」

「君が私のために淹れてくれた、っていうのが大事なんだよ。こういうのは」

 それを聞いて敦は、一瞬固まったかと思うと小さく笑った。

「珈琲くらい、幾らでも淹れてあげますよ。太宰さんがそれで喜んでくれるなら」

 レースカーテン越しの朝日は、真夏の頃より幾分か澄んでいた。もう秋になるのだ。

「太宰さん。今日は海の方へ出かけませんか?」

 それを聞いて今度は太宰が目を細めて笑う。

「やっと私と心中してくれるの?」

 たちの悪い冗談に、困ったものだ、とでも云いたげに敦は首を横に振る。

「――そんなわけないじゃないですか。僕は太宰さんと海が見たいんです。ほら、夏の間は暑いからってほとんど外出しませんでしたし」

「確かに、今の時期なら海辺も人が少なくて良いかもしれないね」

 太宰は冷め始めた珈琲を名残惜しそうに飲んでいる。

「でも、今日はこうやって二人きりでいたい気分なんだ」

 上目遣いに敦を見やれば、彼は片手で顔を覆ってため息をつく。

「前から思ってましたけど、太宰さんって僕を扱うの上手すぎません?」

「年の功ってやつかな」

 二人は顔を見合わせると、唇を重ねた。珈琲の苦味すらどこかへと逃げていく、甘い甘いくちづけ。

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