死人

鷹簸

1

 彼と最後にあったのはいつだろうか。ふと、埃深い記憶を探る。

ただ、駅のエスカレーターの列に並んでいるところを見ただけなのに。

然程仲が良いわけでもなく、かといって悪いわけでもなく。

声をかける理由もなければ、声をかけない理由もなかった。

「久しぶり」

おどおどした、どこか疑問形の声がよろめきながら出た。

「あぁ、久しぶりだな」

よかった。応答してくれた。


 彼とは会うのですら数年ぶりだろうか。

懐かしく感じる背中は何も変わっていないように見えた。

彼はストレスのせいで疲れてしまったと言った。

その顔は笑顔だった。


 家まで送り、私は帰路に戻る。

つい久しぶりの人と話すと感じるものがある。

自分は何か変わったのだろうか、何かできたのだろうか、と。

しかし考えても私自身答えたくないし、そんな状況で答えが出るわけがなかった。


 扉をあけ、靴を脱ぎ、堅苦しい服を脱ぎ捨て、私はパジャマに着替え、何もせずに布団に入った。

においなんてなかった。ただ、だからこそその時にはよかったのかもしれない。

内省した。

泣きたくなった。

悲しくなった。

惨めだった。

苦しかった。


 文字は安価で口をあければ安易に吐ける。

だからこの言葉はきっと嘘なんだと思う。

この短文も無駄なんだと思う。

愛も、本心もないストレス発散ごときの文字に得るものも、与えられるものもない。


 友人は言う。

「__は、優しいよね」と。

でも私は思ってしまう。優しさが一番最初に来るのか、と。

それに私は優しくもない。そうひねくれてしまう。

否、ひねくれるの方が適切かもしれない。

結局構ってほしいのかもしれない。


 こうしている間にも本題からズレ、修正されることなく世に出回る。

論点をずらそうとする気は毛頭ないし、かといって修正する気もない。


 はて、この文章にどんな価値があるのか未だわからないが、

いつか読み返す時がくるのかもしれない。

その時にどう、思うんだろうな、なんて思う。


 何かがつっかえて大切な言葉を出せない、そんな感じになるのだろう。

憂うことなかれ。ただ一心不乱に生きよう。

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