クラスで一番身長が低い君と、クラスで一番身長が高い俺

クラスで一番身長が低い君と、クラスで一番身長が高い俺

 放課後、校内美化委員会の集まりがあった。

 高校の敷地内の花壇の雑草抜きを一年から三年の校内美化委員会のメンバー全員でおこなうのである。


 一年四組の校内美化委員である高木たかぎ康祐こうすけ花岡はなおか愛美まなみも例外なく花壇の雑草抜きの仕事を黙々とやっていた。


(雑草、かなり多いな)

 康祐は内心ため息をつきながら花壇の雑草を抜いている。

 そしてチラリと隣で黙々と雑草を抜いている愛美に目を向ける。

 サラサラとした長い髪が、ハラリと愛美の横顔にかかる。それを耳にかき上げる愛美。長いまつ毛は彼女の大きな目に影を落としている。

(可愛いな……)

 雑草を抜く手が止まり、康祐は無意識のうちに愛美を見つめていた。


 康祐と愛美は同じクラスで委員会が同じなだけ。それ以外大した接点はない。康祐は普段男子としか話さないし、愛美も普段は女子としか話していない。ただ同じ教室にいるだけである。


「高木くん? ……どうかしたの?」

 愛美はきょとんと不思議そうに小首を傾げている。その姿はさながら小動物のように見えた。

「あ……いや、ごめん、何でもない」

 康祐は慌てて愛美から目を逸らし、いそいそと花壇の雑草を抜く。

 愛美も特に気にした様子はなく、雑草を抜いていた。

 康祐はやはり愛美に目を奪われてしまう。

 小さな手で集めた雑草をゴミ袋に入れる愛美。

(小さい手……)

 康祐は自分の手と見比べる。

 触れたらきっと柔らかいであろう愛美の小さな手。それに比べて康祐の手はゴツゴツとしておりかなり大きい。康祐の手なら今溜まっている抜いた雑草を一掴みでゴミ袋に捨てることが出来る。


「結構多いよね」

 ゴミ袋に溜まった雑草を見た愛美は鈴が鳴るような声でクスッと笑う。

「確かにな」

 康祐はチラリと横目で愛美を見ながら頷く。

 自分よりも頭一つ分身長が低い愛美。

(そういや花岡さん……確か身長百四十七センチだったよな)

 康祐は愛美がクラスの友達とそう話していることを思い出した。

(クラスで一番身長低いんだよな)

 その時、愛美が「あっ」と声を上げしゃがみ込む。

「どうかした?」

 康祐は不思議そうに首を傾げた。

「四つ葉のクローバー見つけたの」

 愛美は嬉しそうにふふっと笑う。小さな手には、確かに四つ葉のクローバーがあった。

 その笑顔が康祐には眩しく見えた。

「……良かったじゃん」

 康祐は愛美から目を逸らし、ぶっきらぼうにそう答えた。

「うん。何か身長低くて得した気分。私クラスで一番身長低いから、誰よりも地面に近いじゃん。だから四つ葉のクローバーに気付けたのかなって思って。なんてね」

 そう控えめに笑う愛美。

「……そっか」

 康祐はポツリとそう答えた。

「じゃあ私、ゴミ袋先生に渡して来るね」

 愛美は康祐が持っていたゴミ袋を美化委員会担当の教師へ渡しに行く。

 その後ろ姿を見ながら康祐はぼんやりと考えた。

(俺は百八十八センチでクラスの中では一番身長が高い。だったら俺は他の奴より早く君に手が届くんだろうか?)

 そっと愛美の後ろ姿に向けて、康祐は手を伸ばした。

(なんてな。……まずはどうやって花岡さんと距離を縮めようか?)

 軽くため息をつき、考えるのであった。

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