第19話 草は熱いうちに打て

「──まさかこんなにも早く持ち帰るとは」

「僕の知り合いのお陰だけどね」

「フムフム。お前さんも中々すみに置けんのう」

「いや、ただの旅仲間だよ」


 確かに美人二人を連れてハーレムのように見えても、実際にはなんてことのない冒険者だし、男女の恋愛関係より、力強い助っ人のイメージにしかならない。

 それにリアルでの顔も素性も知らないんだ。

 あんな見かけをしてても、中身は女性じゃなく、女の子のプレイヤーで操作してるネカマかもだし……。


「ねえ、ガイア。ウィル・オ・ウィスプと何喋ってんの?」

「えっ? ノーツには聞こえないの?」

「ワタクシには光の玉が明滅してるようにしか見えないんだけど」

「私も同感ですわ」


 ウェンも同じことを言ってくるからにただの冗談ではなさそうだ。


 なら、僕は何で会話できるかって?

 プログラミングの職業をなめんなよ。


「それじゃ工房に移動するかの。久々の大仕事になりそうじゃ」

「工房で草を煮込むのか?」


 そうなると魔術や調理関連になると思うし、剣とは無縁の世界だと感じるのだけど……。


「いや、煮込むだけではなく、これからワシが作るのは剣じゃよ」

「えっ、この草から剣を?」

「正確には草の抽出した成分をハガネの剣に浸透させるんじゃがな」

「なるほど。練り込むんじゃなく、染み込ませるのか……」


 普通なら剣は炎で高温にした石窯で材質を熱して溶かし、熱いうちに叩いて、剣へと形状を整えていくものだ。

 しかしそんな常識の範囲とはかけ離れ、まるで着物の染色作業のような感じで剣に浸透させるとなると……。


「相手がクセのあるレアアイテムじゃから、それなりの鍛冶レベルのスキルがないといけんが……」

「やっぱり、おじいさんでも無理ですか?」

「何の、鍛冶スキルはマックスまで鍛えておるし、調合のスキルもマックスまで会得しておる。どんなに難しい物でも、ワシにできん剣はない」


 鍛冶も調合スキルも他の補助スキルと同じく、それなりの数をこなさないとレベル(熟練度とも言う)が上がらない仕組みだ。

 それをおじいさんは両方ともカンストだと言い放つ。

 このおじいさん、この村のおさでもあるが、ステータスの振れ幅が半端ない。


「さてと、その物を頂くとするかの」

「はい」

「でもこの体じゃ不憫じゃのう。ちょっと待っての……うぬぬ」


『──ポムッ!』


 少しばかり力んだおじいさんが少し膨らんでプチ爆発し、光の玉から人間の魔導のローブを着た人間の姿となる。

 そして黒水晶の草を入った布袋を受け取ったおじいさんは袋の中身を確かめて、何かのシグナルか、体を鈍く光らせた。


「あっ、とんでもないバケ──」

「ノーツ、駄目ですわよ。相手が気に入らないからと毒気を吐くのは」


 ウィル・オ・ウィスプの形から人間の姿になった瞬間、自己主張の強いノーツが驚きで声を詰まらせたが、悲鳴を上げないからに、ウェンが何とか気持ちを静めるように説明しているようだ。

 こんな時、物分りが早く、大人の対応ができるウェンに感謝したい。


「それは頼りになりますね。こんな能力に長けていて、このような辺鄙な村に居るのが勿体もったいないくらいですよ……って、あっ……」


 危ない、僕の言葉足らずだった。

 下手をすれば、お互いに敵対する関係になっていた。


 今は魔法使いに見えるおじいさんの正体を思い浮かべ、出かかっていた次の言葉を飲み込んで冷静になる。 

 あんなフワモコの丸いぬいぐるみが街中を飛んでいたら、子供たちが面白半分に駆け寄ってきて、飽きるまで玩具確定だ。


 良い意味で言ったら、仲良く遊ぶイメージ。

 そう見えても飽きるまで遊ぶ、やがてつまらなくなったら捨てるという部分に悪意を思わせる。


「まあ、お前さんが思う通り、ワシの正体はあの身なりじゃ。一歩外に足を踏み出せば、魔物扱いじゃしの」

「ですね、後ろの二人は言葉の伝達もできないようですし……」

「フム。ワシと話せるからに、お前さんには魔物と対話できる特殊スキルでも覚えたのかもの」

「ええ、そんなとこでしょうか」


 このモンスターだらけの村に初めて立ち入った時から、村での衝突を防ぐため、魔物使いの能力をプログラミングで付与したんだけど、まさかこんな緊急イベントを起こせるなんてな。


 魔物使いって誰でもなれる職業じゃなく、モンスターに優しく接する天賦の才が不可欠とも言われるらしいし……。


 いや、別にモンスターに優しくしたつもりはなく、金と経験値欲しさに容赦のない攻撃を……。

 うーん、ちょっと違うかな、第三者から見たら、ケモノの狩りばかり浴びせていたけど……。

 クソゲーらしい、取るに足りない流れだな……。


「じゃあ、工房に行くが、お前さんもついてこい」

「えっ、僕もですか?」

「剣作りは力仕事じゃからの。ワシのような老いぼれには若き男の力が必要じゃ」

「はい。僕で良ければ喜んで!」


 ちょうど良かった。

 一度、草から剣を作る製造方法をこの目で見たかったからだ。

 その製造工程を間近で拝見し、コマンドからのスクリーンショットで録り、それらの映像の情報を残す。

 こうすることで鍛冶や調合の技術をギルドで申請しなくても、我が物にできるかも知れないし、何より草から剣を作るという部分も興味深い。


「──それは面白いわね。リアルでの社会見学みたいでさ」

「言えてるな。今となっては懐かしい想い出だよ」

「なるほど。草をそういう風に取り扱うのですね。ガイア様が関心を持つのにも納得です」

「だよな。てっきり草まんじゅうでも作るかと思ったよ」


 そんでもって強引に食べさせて、魔素中毒を中和させると思いの丈を喋ると、ノーツが堪らずに吹き出した。


「アハハ。ガイアらしい発想だわ」

「食いしん坊で悪かったな」 

「いんや、こんな状況下でも食欲があるのはいいことよ」


 ノーツの自然に出た想いに、少しばかりの嫌味を感じる。


「……それ、褒め言葉として受け取っていいのか?」

「そうだよ。今のご時世、褒めて伸ばした方が人間としての成長が早いのよ。逆に叱ると怯えたり、自己嫌悪になって、その位置に留まってしまうからね」

「……何か修羅場を生き抜いたおっさんみたいな発言だな」

「おっさんじゃなくて美少女だけどね」

「確かにアバターはな……」


 ──僕はノーツとウェンに状況を説明し、三人でおじいさんが行く工房へ向かった。  

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