第16話 洞窟でアイテム探し

「──着いたぞう」

「どう見ても洞窟ですね」


 おじいさんが村外れにある目的の場所で立ち止まる。

 僕は初めは何かの間違いかと思った。

 草や木が手入れもされず伸びきっていて、洞窟の入り口を塞ぐように根を生やしていたからだ。


 おじいさんの話では昔は質のいい鉱石などが採掘できて宝の山と言われていたが、魔王復活により、洞窟内の動植物が魔物に変貌して、次々と作業員を襲い続けた。

 それ以来、事故を恐れて、人が来ることはなくなり、この洞窟はこのように手付かずのままらしい。


 僕は魔法アイテムの水晶玉をアイテムボックスから出し、見よう見まねで風の魔法を引き起こす。

 草木は突風で左右に丁寧に折れ曲がり、洞窟の入り口があらわになる。


「まっ、こんなもんだろう」

「うむ、お見事じゃ。このダンジョンの奥に魔素まそを中和する薬草、黒水晶の草が眠っておる」


 ダンジョンは魔王の悪意な力により、入るたびに構造が変化するようになっていると説明するおじいさん。


 薬草はどこに生えてるか謎だが、暗がりを好むらしく、それなりの階数を下らないといけないようだ。

 まあこの程度の難問、プログラムの書き換えで容易たやすいけどね。


「ワシも若い頃、魔素中毒の親友を救うためにこのダンジョンに潜ってな……」

「その親友は優秀な魔法使いだったのに老い先短い命じゃった……」


 魔素という毒に蝕まれた魔法使い。

 力も体力もない普通の人間でもある職業の魔法使いにとって、毒を中和できない中毒症になったら、それこそ厄介である。


「ガイアとやら、例え100%願いが叶わなくても、それでもお主は行くのかの?」

「まあね。大事な仲間を救うのも勇者の務めだからね」

「そうか。そこまでの決意なら、最早もはや何も言わん」


 あんな姿と化したフジヤマさんたちは裏を返せば、魔王に対抗できる貴重な戦力でもある。


 現時点の僕には戦える仲間そのものがいない。

 彼らの魔素の拘束を解いて正気に戻し、僕が治療したとなると、僕の存在価値を認めて、またパーティーに加わってくれるかも知れない。

 あくまでも僕の独断だけど……。


「お前さんの検討を祈る」

「おじいさんも精々長生きしてね」

「言われんでもお前さんが材料を持ってくるまでは地に這いつくばっても生きてやるわい」


 おじいさんが口から漏らした『這って進む』という台詞に現実世界の陸上自衛隊を思い出す。


 ──陸上自衛隊。

 仕事をしながら安価で色んな運転免許が取れる夢のような職。 

 しかしながら、一昔前の体力があれば誰でも採用とは違い、厳しい入団テストや大卒必須、さらに一年以上続けられる隊員しか雇わなくなった自衛隊。

(※諸説あります)


 運転免許を取ってすぐ辞める人を防ぐという意味もあるらしい。

 この異世界に例えたら、自衛隊に適任なのは体力と力がある戦士が一番適任かな──。


「ははっ、その例えは大袈裟だよ」

「何の。お前さんの緊張をほぐすためのゾンビジョークじゃよ」


 おじいさんが苦笑いをしながら、今日一番のシャレを口にする。

 這いずりゾンビはこの世界でも繋がる暗号みたいなものなのか。


「うん、和らげるどころか見事にすべってるし」

「うぬぬ。かなりの力作じゃったのに……」

「笑いの観点からしてズレてるよ」


 アイススケート場でスピードスケートを披露するが、肝心の滑れる足がついていかない状態。

 寒いコントな相手に白々しくなり、体を支える軸という観点からも離れつつあった。


「じゃあ行ってくるから」

「お気を付けての」


 僕は洞窟へと足を踏み入れながらおじいさんの気持ちを受け取る。


「身の危険を感じたら躊躇ためらわずにワシがあげた脱出の巻き物を使うんじゃぞ」

「分かったよ。命は一個しかないし、お金では買えないもんね」


 緑の革で包んだ巻き物を背負ってるリュックサックに入れて、命の大切さを告げる。

 一応万が一に備えて、蘇生アイテムも数個買ってあるんだが、今はおじいさんの話に乗ってあげたい。


「そうじゃ、長話もなんじゃったな。こうしてる間にも時間は刻々と過ぎておるからの」

「うん。時は金なりって言うし」


 こうしてる間にも魔王は力を蓄えつつあるんだ。

 僕はおじいさんに一礼した後、ダッシュし、洞窟の中へと飛び込んだ。


****


 ダンジョンの中はジメジメとした湿気があり、おまけに照明などもなく薄暗い。


「クソッ、こんな暗闇じゃ薬草どころか、モンスターの姿すら判別できないぞ……」


 プログラマーの知識を活かして、灯りというアイテムを加えるか。

 俺はウィンドウを開き、手元のキーボードで書き換える項目を作る。


 手頃に作れる灯りとして懐中電灯が思い浮かんだけど、この異世界にそんな部品はないだろうし、技術すらもないだろう。

 仮に蛍光灯と入力し、等間隔に設置するのも全ての灯りを照らすエネルギー供給が必要となる。


 そう考えると地球の先進国は凄い勢いで発展したのだと。

 リアル世界で当たり前にできたことも、この異世界では通用しないことが多いのだ。


「……だとしたら松明たいまつ辺りしか作れそうにないな」


 思い立ったが吉日。

 早速さっそくウィンドウを開き、キーボードで必要項目を打ち込む。


「よし、新規アイテムとして松明をプラスと。一回こっきりの使い捨てだから、店で売るときは5銅貨にしてと……」


 一本から使用できる松明を生み出し、追加オプションとして、洞窟内でも壁にセットするだけで、みるみる目の前の暗闇が薄れていく。


「さてと。ここ先、順調な滑り出しだな」


 僕は隅々まで見渡せるダンジョンを見ながら、黙々と階段を下っていった……。

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