第14話 勇者のなり損ない
「……僕は本物の勇者になりたいんだ」
「はあ? 馬鹿言ってんじゃないよ!」
「そうですよ。上級職のプログラマーになったでしょう」
僕の願いに真っ向から反対する熱い口調のノーツに、冷静に説得を試みるウェン。
二人は極端な性格だが、お互いの欠点を得意な分野でカバーし合ってこそ、今日まで同じメンバーでいられたのかも知れない。
「いや、天地創造も色々と大変で」
「別に世界を統括してるわけでもなく、キーボード触ってるだけだよね。どこが不満なんだよ!」
「そういう横暴な態度を変えられない所とか」
「何だよ、ワタクシにNPCになれとでもいうの? どう生きようと本人の自由だよね!」
ノーツの口調がいつもにも増して激しく荒っぽい。
元からグイグイと迫るヤツでもあったけど、こんなにも激しい性格な相手だったか?
これが本性だとしたら、とんでもない猫かぶりだな。
「ちょっとノーツ、言い過ぎですよ」
「ウェン様も甘いのですよ。この男は上手いことパーティーを利用して、悪巧みを考えていたんですよ」
正義感が強く、曲がったことが嫌いなノーツはウェンにも理解できるように置かれた状況を語る。
こんなにも火種がつけば、もう黙ってやり過ごすことはできないな。
「そうだ、僕は存在感のある一員になりたかった。高レベル50の魔法戦士とパラディンに比べて、僕はレベル3の半端ものだし……」
「レベルならさっきのイベントクリアで上がっているぞ。お主、今はレベル5だぞ」
「あー、ライオンキングさん、余計なこと言わないでもらえます?」
この場の空気が読めないライオンキングを黙らせるため、お口チャックのジェスチャーをライオンキングに向ける僕。
一国の王様ならすぐに反応してくれるだろうと願いながら……。
「あー、もういいわ。ワタクシ、このパーティーを抜けさせてもらうわ」
「えっ?」
怒ったノーツがウィンドウをオープンして僕のメンバーから外すコマンドを入力する。
ご丁寧にウェンの分の登録すらも解除してるし……どんな時も主従関係でもあり、
一見、言動はガキのように見えてるけど、内面はちゃっかりしてるな。
まあ、アバターでならいくらでも若作りできるし、僕のような中身がおっさんでも外見はイケてる青年に見せることも可能だし……。
「ウェン様も行きましょう。こんな男といるとこちらまで頭がおかしくなってしまいます」
「あっ、はい。申し訳ございません、ガイア様、私は……」
ノーツがウェンの手を取って歩みだす中、半端、強引に引っ張られながらも、僕に礼儀正しく頭を下げて謝るウェン。
知って知らずか、僕から背を向けた無言なノーツの姿が痛々しい。
「いいってことよ。僕みたいなホラ吹き野郎のメンバーより、仲の良い友達と一緒の方がいいだろ」
どんな時でも友達は大事にしないとなと親指を立てると、落ち込んでいたウェンが安心したように朗らかな顔つきになる。
「ガイア様って意外と紳士なのですね。命令を無視した私たちはてっきり身ぐるみを剥がされ、闇ギルドに売り飛ばすとノーツに聞かされてましたから」
「失礼な、僕がそんな男に見えるか?」
「ええ、航海を断った時点で立派な反逆行為だとノーツが申しておりました」
「あー、さっきから何なんだよ。あの
僕はノーツの本心が読めないもどかしさにムカつきながらもウェンたちと別れた──。
****
「ああー、また一人ぼっちになってしまったな」
「お主も色々と大変なのだな。まあ、分からなくもないがな」
一国の王様が全てを見透かした目で憐れみの僕に同情までしてくれる。
「じゃあさ、ライオンキング。あなたが僕のパーティーに入ってくれるかい?」
「いや、遠慮していこう。ワシはこの国を統べる王様であり、総括者でもあるからな」
「なるほど、ロースカツ丼が食べたいお年頃か」
さっきからカツカツばかり喋ってくるから、例の黄金の丼が食べたくなってきたな。
問題はこの異世界に養豚がいるかだけど。
二足歩行なオークの肉なんてごめんだしな……。
「ほら、ワタシの言った通りになったでしょ」
「本当だ、読み通りだね」
誰もいないはずの闘技場の観客席から拍手が聞こえてくる。
どうやら聞き間違いとかでもなく、リアルな響きらしい。
「そこにいるのは誰だ!」
あれは褒めているようで悪意のある拍手喝采だ。
瞬時に殺意を感じ取った僕は腰に忍ばせていた短刀を音のした方向に投げた。
『ガキーン!』
短刀は別の金属音によって防がれる。
今まで秘密裏にしてた隠れスキル、瞬発の
結構なスピードで投げたつもりなのに易々と防がれたんだ……。
恐らく、この周辺のエリアボスを超えた強敵で只者じゃない力の持ち主なことは確かだ。
「おいおい、顔見知りの相手に対して突如に攻撃なんて関心しないなあ」
「その声はフジヤマさんか?」
「ご名答。でも知り合いは俺だけじゃないよ」
フジヤマさんが大剣を構えたまま、後方に下がり、法衣のやんちゃ娘とローブの大人しい女の子を前に出す。
「ルナ、ステラ! 無事だったんだな!」
「ええ。お久しぶり」
「ガイアは相変わらず変わらないですね」
ルナとステラが無事だったことを知り、安堵の息を漏らす。
だが、何となく様子が変だ。
ステラからは魔力を籠めたオーラが漂っているし、ルナは杖を向けたまま、攻撃の構えを解こうとしない。
おまけにフジヤマさんはいつもの白とは正反対な黒い甲冑を身に着けている。
その甲冑からは黒い煙のようなものが出ているし、鎧の中に何か仕掛けでもあるのか?
「ガイアさん、これはほんの挨拶代わりですよ」
ステラが黒く染まった木の杖を地面に当てたまま、膨大な魔力を地表に流し込む。
ヤバい、これはデカイのが来るぞ!?
『
『ドコオオーン!!』
闘技場の石の床に亀裂が走り、一つの石板だったものが粉々に崩れていく。
「なっ、どうしたんだよ!?」
「僕たちは同じ仲間だろー!」
床に大きな穴が空き、その中に飲み込まれそうになる僕。
いち早く、異変を察したライオンキングは近くで羽を休めていた手下の小型竜を口笛で呼び、小型竜に身を委ねつつ、宙を舞っていた。
「おい、人の話を聞いてるのかよー!」
僕の苛立った叫びも虚しく、地面の破壊音と混じりこむ。
「そうね、ちょっと前まではね。でも今はフジヤマ魔王様の忠実なメンバーの一員なの」
「フフッ、せいぜい溶岩の水遊びを楽しんで下さいねw」
何だって、あのフジヤマさんが裏切ったのか?
それで魔王って何だよ?
ルナもステラも僕じゃなく、あっち側について……もう、どう考えてもわけが分からないよ。
「さらばだ、勇者のなり損ないよ」
「うわあああー!?」
フジヤマさんたちが飛翔魔法で宙に浮いて、観客席の天井で静止しながら、大地の底へと落ちていく僕を見つめる。
フルフェイスの黒い兜を被ってるせいか、どんな思いをしてるかは不明だったが……。
煮えたぎるマグマの海に体が浸かり、徐々に削られるHP……。
追い打ちをかけたかのように、ライオンキングの助けも無しときたか。
ゲームだから熱さや痛覚はないが、この分じゃ、一分も持たない間にゲームオーバーだろう。
そんな生と死の狭間で一つだけ察したことがある。
僕は厄介な連中を敵に回したなと……。
─────────────────────────────
EPISODE1 ゲームライターとプログラミング編 完結。
To be continued……。
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