第56話 アウレの工房

 水曜日出発、異世界勉強2泊3日の旅2日目。


 オレは前回と同じ様に、和倉屋で受験勉強に没頭していた。


 気分転換にギルドへ顔を出してはみたが、ファームガードの伝言は予想通り無かった。

 

 お昼は盾の乙女へ行き、昼食を食べながらラゲルタさんと会話をした後、オレはアウレの工房へ向かう。


 アウレの工房は南門の近くにあり、複数の工房が建ち並んでおり、この一帯は街の工業区画らしく、いろんな種類の工房が軒を連ねていた。

 中でも、この一角は鍛冶屋の割合が高く、必然的に道行く人はドワーフが多く見られ、ドワーフタウンとでも言った所か。

 

 オレはアウレの工房の前で中の様子を伺うと、アウレが真っ赤な鉄の塊をハンマーで叩いていた。


 カーン、カーン、カーン!


 どうやら仕事に集中している様で、声を掛けづらい。それに、声を掛けてもハンマーの音がうるさくて聞こえないだろう。

 オレは、アウレの仕事が一段落するまで、外から仕事風景を眺める事にした。


 30分くらい経っただろうか。ハンマーの音が鳴り止むと、アウレがゴーグルを外してタオルで汗を拭き、サーバーから銀のコップにエールを注ぎ一気に飲み干した。


 うぃ〜、休憩の一杯はうめ〜ぜぇ!


「こんにちわ~!」


「おやっ、ソーマじゃねぇか! 早速見学に来たのかい?」


「ああ、見学もだけど、刀が手に入ったんでね!」


「まぁなんだ! 取り敢えず駆けつけ一杯だ!」


 そう言うと、アウレはサーバーから銀のコップにエールを注いでオレに渡し、自分の分も追加で注いだ。


「ソーマ、乾杯だ!」


「お、おお」


 キーン!


 グビ、グビ、グビ!


 オレはアウレのペースに乗せられて、なぜか昼間からエールを飲むはめになっていた。


 ブハァ〜、休憩の一杯はうめ〜ぜ!


 お〜い、さっきも独り言で同じ事を言ってなかったか〜い?


「その〜アウレ、2杯目だと思うけど仕事に支障とかないの?」


「何を言っとる、ドワーフにとってエールはお茶みたいなもんだ。ワハハハハ!」


 それにしても、ドワーフはお酒が好きだとは聞いていたが、お茶の代わりにエールを飲むという事で良く分かった。


 オレはエールを飲み干すと、アウレに案内されて隣の事務所へ移動した。


 事務所の中はクーラー?がついており、工房の暑さから解放される。中央には大きめの机があり、左の棚には設計図や書類が積まれ、右の棚には数点の剣の完成品が置かれている。


 オレはアウレに勧められて椅子に腰掛けると、早速、東雲さんからもらった日本刀を机の上に置いた。


「アウレ、これが刀という武器だ!」


「ほぉ〜う、これが刀かあ〜!」


 アウレは刀を抜いて、マジマジと観察する。


「ちょっと振ってもいいかあ?」


 オレがうなずくと、アウレは工房の広い空間で素振りを始めた。


 さすかドワーフ。剣を作るだけあって素振りがさまになっている。

 何回も素振りしているのは、刀の重心を見極めているのだろうか。


「ソーマ、試し斬りをしても良いかあ〜?」


 職人気質の遠慮のない質問、嫌いじゃないぜっ!


「ああ、この刀はアウレにあげるから、好きな様にしてくれていいよ!」


「本当かっ? ありがたいぜ!」


 とうやら、今まではアウレなりに気を使っていた様だ。


 さすが職人!


 アウレは試し斬りの台座を移動し、そこに腕の太さ位の竹を立てて下方を3点で固定した。

 

 アウレは竹の前に立つと、ゆっくりと上段の構えを取る。


「ええぃッ!」

 

 見事な袈裟斬り。太い竹が斜めに切断された。


 そして、竹の切断面を観察してアウレが唸る。


「見事だっ! ソーマ、これ程のものを誰が作ったんだ?」


 難しい質問が返ってきた。なんて答えようか?


「アウレ、これは日本刀という武器で、オレの故郷で作っているんだ。だけど、柄を見て欲しい」


 アウレが刀の柄を見て納得した顔をする。


「オレの国には、魔石を埋め込む技術が無いんだ! だから、アウレにこちらの技術と材料で、これと同じ物を作って欲しいんだ!」


「おお〜そういう事か、望む所だっ!」


 オレ達は再び事務所に戻ると、アウレが棚から水晶を取出し机の上に置く。


「アウレ、この水晶は何だ?」


「この水晶はなぁ、ドワーフ族に伝わる武具鑑定水晶だ。主に魔石の力が刀身に伝わる流れを見るために使うんだ!」


 ギルドにある鑑定水晶とは違い、武具に特化した水晶らしい。


 アウレは日本刀を水晶にかざすと、水晶から文字と画像が映し出された。


日本刀  Lv5

攻撃   B

魔法障壁 Lv0


 凄い! レベルが5もある。

 しかし、魔法障壁がゼロ。それに、スキルも無い。


「なるほどな〜、物は極上品だが、この世界では使い物にならねえなぁ〜!」


「そうだな、アウレに任せる!」


「おお、任された!」


 次は映し出された画像を見る。


 刃の断面が細胞の様に映し出される。


 コレは……電子顕微鏡だッ!


 オレが見ても分からないが、アウレには分かるらしい。


「う〜ん、これは興味深い。こんな物どうやって作ったんだ? 日本の技術とは相当凄いんだな?」


「どう凄いんだ?」


「俺が知る限りの剣では、金属の板が数十枚に折り重なった構造をしてるんだが、この刀は数百枚に折り重なっているんだ。こんなのありえねぇ!」


「重なりが多くなると、どうなるんだ?」


「強度が増す。それに斬れ味も増す。お前が盾の乙女で言っていた、斬れ味バツグンで細いけど折れない剣のカラクリだよ!」


 アウレは未知なる発見に、目をキラキラと輝かせていた。

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