第53話 ギルマス

 オレはオーガ虫の魔石が入ったズタ袋を担ぎ、ギルドの換金窓口に来ていた。

 ちなみに、オーガ虫の魔石は不思議な事に臭いはしない。


「カレンさ〜ん、換金お願いしま〜す♪」


 オレは鼻歌まじりに、重たいズタ袋をカウンターに載せた。


 ガチャリ!


「ソーマ、こ、これ全部が魔石なのかい?」


 カレンさんは驚きのあまり、顔を引き攣らせている。


「はい、オーガ虫の魔石100個です!」


 オレは胸を張って答えた。


「ちょっと待っておくれ。今数えるからねっ」


 カレンさんはカウンターの下から木の箱を取り出すと、ズタ袋から魔石を取出し、数えながら入替え始める。


 しばらくすると、数の確認が終わったらしく、カレンさんがにっこりと笑った。


「丁度100個だね。今はオーガ虫が特別価格になってるから、プラチナ金貨1枚になるんだけど、この金額ではギルマス決済が必要なんだ」


「ギルマス?」 


 ここの1番偉い人だな。どんな人だろう? 厳つい中年のおっさんか、それとも、髭を生やしたおじいさんか、意外と香織パパみたいな紳士かもしれない。


 オレがギルマスの想像をしている間に、カレンさんは書類に何やら書き込むと、書類とギルドカードを手渡して言った。


「ソーマ、これを持って2階にあるギルマスの部屋へ行ってくれないかい?」


 冒険者ギルドの2階へ続く広い階段。丁度ギルドと酒場の中間にあり、中二階までは酒場と共有で、そこから2階へ続く階段が左右に伸びている。

 そして、階段を登って廊下の一番奥がギルマスの部屋だ。


 オレはカレンさんから書類を受け取ると、ギルマスの部屋へ向かった。


 コンコン……。


「大和創真です。カレンさんから書類をもらってきました」


「どうぞ、入って下さい」


 はて? どこかで聞いたような……


 オレがギルマスの部屋の扉を開くと、そこには受付嬢のメガネっ子が執務机に座り、ニヤリと笑いながら手招きをしている。


「ええ〜、なんで受付嬢がこんな所にぃ〜!?」


「失礼ねぇ。私がギルマスのサリーよ! ソーマ君」


「す、すみません。サリーさん」


「う〜ん、ソーマのイケずぅ〜。サリーちゃんと呼んでねっ!♡」


 えぇっ、この人、偉い人だよね〜!?

 

 それに、年齢もオレより少し上の20くらいに見えるし、サリーちゃんなんて呼べません!


 それにしても、相変わらず掴みどころのないキャラだ。 


 コホン。


 オレは咳払いすると、サリーさんの執務机の上に書類を置いた。


「サリーさん、魔石の換金にギルマスの決済が必要です。ここにサインをお願いします!」


「イヤぁ〜ん、サリーちゃんって呼んでくれないとサインしないぞぉ〜!」


「……」


 ダメだ、この人。話が通じないわ。


 オレは諦めてギルマスの言葉に従う事にした。


「サ、サリ〜ちゃん……」


「ハ〜イ!♡ ソーマ、私に何か御用?」


 ハハハ、最初の会話に戻ってるよ。頭の中がお花畑になりそうだ。


 たまりかねたオレは声を張り上げる。


「書類に決済をッ!」


 ようやく、サリーちゃんは書類に目を通してくれた。


「ほおぅ、1人でオーガ虫を100匹。普通じゃあり得ないわねぇ〜」


 サリーちゃんは、ニンマリしてオレを見つめる。


「それに、昨日も1人でガマロ60匹を倒したわよねぇ〜。ソーマ、ちょっとこの水晶に手を当てなさい!」


 サリーちゃんの顔が、威圧感のあるギルマスの顔になっている。


 オレは威圧に抗えず水晶に手を当てた。


 すると、サリーちゃんが水晶の文字を見て驚いている。


「な、何コレぇ? 召喚まであるじゃない! あなた、虹色の魔石を持っているわね?」


 オレは、素直にうなずいた。


「ソーマ、予想以上だわっ! やっぱり、私が見込んだ通りの逸材よッ!」


「はあ……」


 どうやらオレは逸材らしい。だけど、この人は逸材を見付けて、どうしようというのだろうか?


「だけど、レベルが足りてないわね。早くレベル20に成りなさい!」


 何か意味ありげな言葉に、オレは問いたださずにはいられなかった。


「ギルマス、いやサリーちゃん、レベルが20になったら、何かあるんですか?」


 サリーちゃんは、ニンヤリ笑って答える。


「それはねぇ〜 ヒ・ミ・ツ!♡」


 あぁ〜、またコレだっ!


 オレはサインの書かれた書類を受け取り、ギルマスの部屋を出た。


 再びカレンさんの所へ行き、サインの入った書類を渡すと、カレンはバックヤードからトレイに載せたプラチナ金貨1枚を持って出てくる。


「ソーマ、これがプラチナ金貨だよ。おめでとう!」


 初めて見る白銀色のプラチナ金貨はキラキラと輝いていた。日本円にすると100万円。

 オレはプラチナ金貨を懐へ大事に仕舞うと、カレンさんにお礼を言ってギルドを出た。


 向かうは武器屋。連泊作戦により、いつもとは流れが違う。


 この2日間での利益は、プラチナ金貨1枚と金貨2枚。

 オレはそのお金で鋼の剣24本を買い、ズタ袋に8本ずつ3回に分けて宿屋の自室に運び入れる。


 その後はいつもの様に、露天風呂を堪能し、夕食を腹一杯に食べて、ベッドに入り眠りに就いた。


 結局、東雲さんの要求35本に対し、異世界2日目にして、既に24本も揃える事が出来た。


 オレは見事に、供給能力の増強を果たしたのだった。

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