第46話 謀略

 午後7時、政府発表が始まった。


「国民の皆さん、多摩湖ゴブリン事件について政府の発表を致します。

 昨日、多摩湖に16匹のゴブリンが現れ自衛隊が全て殲滅しました。しかし、ゴブリンによって死亡者35名、負傷者19名の犠牲が出ており、誠に残念で遺憾ではありますが、犠牲者への追悼と遺族の方にお悔やみを申し上げます。

 政府の対応と致しましては、この2日間で多摩湖一帯を調査し、ゴブリンがいない事を確認しました。今後は更に捜索範囲を広げて皆様の安全の確保に努めてまいります」


「以上で政府発表を終わります」


 壇上から去って行く総理に向けて、記者達から質問という名の怒声が飛び交う。


「総理! GAT隊について話して下さいッ!」


「総理! なぜGAT隊は犠牲者を守れなかったのですかあッ?」


「SATや特殊作戦群があるのに、わざわざGAT隊を作る必要があったのですかあッ?」


「防衛予算を作戦失敗のGAT隊に割く必要があるのですかあッ?」


「防衛大臣の更迭をしないんですかあッ?」


「すみませんが、これは記者会見ではないので質問は控えて下さいッ!」


 ここで、総理官邸からの中継が終わり、ニュースキャスターがスタジオのコメンテーターに意見を求めた。


「これは、防衛費が膨らんだもんだから、防衛省がろくに精査もせず重複する部隊をどんどん作っているんじゃないんですかねぇ〜?

 私が調べた情報ですが、自衛隊はGAT隊をまだまだ増やそうとしています。これは予算無駄遣いの何物でもありませんッ!」


「ありがとうございました。今後は政府への風当たりが強くなると予想されますが、我々報道は注意を持って政府の動向を見守っていきたいと思います」


 ニュースが終わった。


「なんだコレ〜!?」


 知らない者と分からない者で、自衛隊と防衛省をボロカスに叩いているだけの茶番劇だった。


 香織パパが心配だ。



☆☆☆☆☆☆☆



 その頃、政府発表を終えた岸本総理は官邸で閣議を開いていた。


「総理、お疲れ様でした」


 官房長官が総理を労う。


「とりあえず、政府発表で国民のガス抜きはしましたが、国会での野党の追及が激しくなるでしょうね。何か良い案はないですか?」


 総理の質問に高山特務大臣が答える。


「法案を通す為にも、防衛大臣の更迭とGAT隊の解散が必要かと存じますわ!」


 高山の発言に対し、河田防衛大臣は怒りを露わに反論しようとしたが、警察庁長官が先に発言した。


「ちょっと待って下さい。警察官の犠牲は出ましたが、自衛隊が駆けつけてくれなかったら被害は3倍、いや5倍に膨れ上がっていたでしょう。それに、報道されている内容が事実と異なります。自衛隊に落ち度は無かったと私は思います」


 長官の発言に、高山が高圧的に反論する。


「お黙りなさいっ! 今は国会と世論の話をしているの。事実がどうあれ、野党とマスコミをどう交わすかを議論してちょうだい!」


 高山大臣は総理の懐刀であり、総理が最も信頼する譜代議員の1人なのだ。外様である警察庁長官は言い返す事ができるはずもなかった。


 しびれを切らした河田が反論を始める。


「今、GAT隊を潰せば、桜島のゴブリンは誰が対処するというのですか?」


「そこは心配いりません。アメリカと韓国から更に強力な武器を追加予算で購入する事が決まったんです。確かレールガンと言ったかな?」


 岸本総理は勝ち誇った様子で言った。


「なっ、そのレールガンはゴブリンに効果があるのでしょうか?」


「大統領は問題ないと言っていましたよ。それに最新兵器を購入するチャンスでもありますからね。今時チャンバラは流行りませんよ!」


「わ、分かりました。但し、条件が1つあります。GAT隊だけは潰さないで頂きたい。そうして頂ければ早急に辞任致しましょう。もちろん、レールガンの購入価格などは決して漏らしません」


「河田君、それは脅しですか? いや、分かりました。条件を飲みましょう」


 話が終ると河田は早々に官邸から立ち去ったが、他の大臣は席に着いたままであった。


 河田が去ったのを確認して岸本総理が言った。


「入って下さい!」


 閣議室の入口から入って来たのは、岸本派閥の浜井議員だった。

 浜井は閣僚達に一礼すると、先程まで河田が座っていた席に腰をおろした。


「皆さん、彼が次の防衛大臣です。よろしく頼みますよ」


 岸本と高山は目を合わせてニヤリとしていた。


 翌日、河田防衛大臣の辞任と後任者の発表がされた。



☆☆☆☆☆☆☆



 GAT隊宿舎の食堂では、隊員達がその日の訓練を終えて夕食を取っていた。当初9人だった隊員も現在は30人に増えていた。


「おいおい、どうなってんだあー?!」


 テレビの報道を見て近藤が叫ぶ。


「陸佐! なんで大臣が辞任しなきゃならないんですかっ? GAT隊は誰も出来ない任務をやってのけたじゃないですかっ? 褒められるならともかく、なんでGAT隊の責任を取って大臣が辞任という事になるんですかぁ〜?」


 近藤の言葉に隊員達の誰もがうなずき陸を見ている。


 仕方なく陸はその場に立ち上がり、父親から聞いた話を隊員達に語り始めた。


「皆んな落ち着いて聞いて欲しい。政府はGAT隊を解散する腹積りだったが、河田大臣が自分の身と引き換えにGAT隊を残して下さった。

 我らは大臣の意思を継ぎ、桜島のゴブリンを討伐する為に、来たるべきその日まで、己の剣を研ぎ澄ませて欲しい!!」


 一時後イットキゴ、隊員達から一斉に拍手と歓声が湧き上がった。

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