第37話 オーガ虫の恐怖

 オーガ虫の討伐は10匹で終了となった。なぜなら、オーガ虫が絶命時に発する臭い匂いに耐えられなくなったからだ。


「タケじい、もう限界だ。早く風呂に入りたいよぉ〜」


「ワシもじゃ!」


「えっ、タケじいも臭うのか?」


「何を言っとる。ワシはお主の中におるんじゃ。お主が臭いと感じたら、ワシも同じ様に感じるんじゃ!」


 確かに、タケじいはオレの中にある遺伝子だった。英雄には見えないけど……


 オレ達は討伐を打ち切ってギルドへ向かった。


 ギルドに入ると、他の冒険者がこちらを振り向き、嫌な顔をして離れていく。

 換金窓口のカレンさんは、オレを見るなりタオルで鼻と口を塞ぎ身構えている。


「カレンさん、換金をお願いします」


「オ、オーガ虫だね、何匹狩ったんだい?」


「10匹です」


 そう答えて、オレはカウンターにオーガ虫の魔石を10個並べた。


「信じられない、あんた10匹も狩ったのかい! どうりで臭い訳だ」


「えっ? 皆んなどうしているんですか?」


「普通はせいぜい1匹か2匹だね。それならギルドに着くまでに臭いが取れているのさ。ソーマの場合、3日間は取れないだろうね」


 ガ〜ン!!


 かなりショックな事実を告げられて、オレがへこんでいると、カレンさんがアドバイスをくれる。


「宿屋でクリーニングに出すと良いよ。それでも完全には取れないが、しないよりはマシだからね」


 そう言って、カレンさんは銀貨5枚を渡してくれた。


 早速オレは、和倉屋でクリーニングを頼んだ。料金は銅貨50枚と結構高くついたが背に腹は代えられない。


 客室で浴衣に着替えると、臭い服をクリーニングに出して露天風呂に入る。


「ふぅ〜、気持ちいい〜!」


 クンクン? なんだか臭うぞ??


 オーガ虫の臭いは服だけでなく、オレの体にも、しっかりと染み付いていたのだった。

 オレは洗い場に行き、備え付けの粉石鹸で体中をくまなく洗った。


 お風呂にも入ってさっぱりしたし、お待ちかねの夕食バイキングだあ〜!


 オレが勇んで宿屋の食堂に入ろうとした時、店員が入口を塞ぐ。


「お客様、非常に申し上げにくいのですが、少々、いや、かなり匂いますので、他のお客様の迷惑になります。誠に申し訳ありませんが、本日の所は夕食をキャンセルさせて頂きます」


「ええっ、嘘だろぉぉ〜!?」


「残念ながら、この街にはオーガ虫条例がございまして、匂いの酷いお客様の入場を店側が拒否出来る権利がございます。異国の方だからお泊めさせて頂きますが、食堂はご容赦下さい」


 オレはオーガ虫の恐怖を知ると共に、この宿に泊まれた事を感謝して部屋に引き下がった。


 部屋で携帯食を食べてから、もう一度お風呂に入ると、だいぶ匂いがマシになり、微かな望みをかけてもう一度食堂へ行くと、残念ながら夕食タイムは終わっていた。

 オレは仕方なく明日に備えて眠る事にした。


 チュン、チュン……


 今日も気持ちの良い朝がやってきた。

 さすがにレベル3のオーガ虫を10匹倒した位でレベルアップはなく、今日の目的の朝食バイキング、いやいや、2回目のパーティ討伐戦に向けて早起きをした。


 コンコン、コンコン


「はーい!」


 ドアを開けると、宿の店員が昨日出した洗濯物を持ってきた。


「お客様、努力はしましたが、これが限界です」


 クンクン


 洗濯物を受け取り匂いを嗅ぐと、かなりマシになっていた。

 考えてみれば、粉石鹸しかない中世レベルの異世界で、ここまで匂いが取れれば上出来だ。


「ありがとうございます。それで〜朝食は食べられますか?」


 オレは恐る恐る尋ねた。


 クンクン


「はい、ギリギリ合格です!」


 ヤッタぁ〜!!


 オレは出発の準備を整えると、朝食バイキングをたらふく食べて東門へ向かう。


 東門に着くと、ファームガードの4人が既に集合していた。


「お〜い皆んなぁ〜、おはよう〜!」


 手を振って皆んなに近づいて行くと、皆んなも手を振り笑顔で答えてくれたのも束の間、だんだんと険しい顔つきに変わっていく。


「おはっ……、んん~、何か臭うぞ?」


「えっ? だいぶマシになったと思ったのにぃ〜」


「ソーマ、残念ながら臭うぞ」


「ソーマ、臭っさ〜」


「ソ・ソーマ、腐った臭いで、む・虫避けになる」


「ソーマさん……」


 何か言えよっ!


「ハハハハ、カレンから聞いてるよ。昨日オーガ虫を10匹も倒したんだって? そりゃあ臭くなるわね〜!」


「はぁ〜、こんなに臭くなるとは知らなかったもので……」


「しかし、思ってたよりもだいぶ匂いが取れたんじゃないかい? まだ臭いけど……」


 グサッ!


 オレは二度とオーガ虫には近付かないと心の中で誓った。


「ところで、今日は何を狩るんですか?」


「今日のターゲットはね〜、レベル13の魔鳥だよ! クエストも付いてるからマモシよりも稼げると思うよ!」


「オレのレベルはまだ8なんだけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。マモシ討伐であたしはレベル21、ディーンとロイドは20でDランクに昇格したよ。それよりも凄いのがエリンだ。ツチノコ3匹を倒したお陰でレベルが5つも上がって15になったんだ!」


 相変わらず、オレだけが討伐レベルに足りてないんだが……


「皆んな、おめでとう!」


 そう言って皆んなに近づくと、近づいた分だけ距離を開けられる。


「……」


 オレはオーガ虫の恐怖を身を持って体験したのだった。

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